憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
「まぁ、今日もお会いできないのですね」
「申し訳ありません。軍事令という責任ある立場でございますから。調整はしておりますのでお待ちくださいませ」
そう告げれば、アミーラ王女は明らかにガッカリしたように目を伏せた。
彼女が来訪した翌日、早速国王であるユーリ様はお仕事に調整をつけて彼女と話す時間を作った。それゆえに彼女の中にはジェイドにもすぐ会えるという淡い期待を抱かせてしまったようで、来訪から4日経っても未だに待ち人との面会が果たせない事に少しばかり焦りが産まれてきたらしい。
「私、ジェラルド殿下にとって迷惑だったのでしょうか?」
ポツリと呟いた彼女の言葉に、返答に窮する。正直言ってジェイドにとっては迷惑以上の何者でもないのだが、ここでハッキリと私の口から言うべきではなくて…。
「申し訳ありません。もう少しお待ちください」
なんとか笑顔を作ってやり過ごすことしかできなかった。
あれから数日、私とジェイドは顔を合わせていない。軍司令の仕事が多忙を極めているのは嘘ではないらしいが、どうやらジェイド自身が私やユーリ様を避けているらしい。
正直、ジェイドをアミーラ王女と面会させることは難しいのかもしれないと思えてきている私は、こうして毎日アミーラ王女と対面する事も億劫になってきている。
陰鬱になってきた心を落ち着けるために、お茶を一杯飲んだ時、不意に目の前のアミーラ王女の視線の先が気になった。彼女の視線が、私よりもさらに後方に向けられていて。一点を凝視していた。
その顔は、以前のように頬がピンクに染められて…瞳が潤んでいて…。
その視線の先を追うように振り返れば、お茶をしている広間の入り口に、軍事令の制服に身を包んだジェイドが立っていた。
「まぁ、ジェラルド殿下!!」
歓喜した様子のアミーラ王女の高い声に、ジェイドは社交などの時に見せる対外的な笑みを向けてこちらに向かってくると
「ご訪問が、遅くなり申し訳ありません。わざわざ遠いところをお越しいただきありがとうございます。」
紳士的な口調でアミーラ王女に挨拶の礼を取る。
「夢のようですわ!」
そんな彼の一連の動作を感極まったように、潤んだ瞳で見ていたアミーラ王女の表情は、やはり恋する乙女の表情だ。
そんな彼女にジェイドは、窓の外を指して
「少しお庭でも見ながらお話ししましょう。
姉上は大切なお体ですから、先に王宮にお戻りになって休み下さい」
私とアミーラ王女の双方にそう言うと、さぁとアミーラ王女に手を差し伸べる。
ズキリと胸が、痛んだ。
そんな私にジェイドは一度だけしっかりとした視線を向けて頷く。どうやらここは任せろと、言いたいらしい。
その意を汲んで、私はひと足先に迎賓宮を後にする事にした。
馬車に乗る直前、庭の方から浮かれたようなアミーラ王女の声が聞こえてきて、グッと唇を噛んで振り払うようにして扉を閉めた。
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