憧れの陛下との新婚初夜に、王弟がやってきた!?
王宮へ戻り、自室に戻るとベッドに横になる。
午後いっぱいはアミーラ王女に付き合うつもりだったので、執務は午前で終えていた。きっと今の状況では満足に仕事も手につかないに決まっている。
目を閉じれば、アミーラ王女の手を取って庭に出て行くジェイドの後ろ姿が映る。
こんなに彼の事を好きになっていてジェイドを片時も他の女性に取られたくないと思うなんて…知らなかった。
身体を丸めて肩を抱く。
まだ先日の彼の大きな手の感触が残っているような気がして…いつの間にか私は眠りについた。
そうして目を覚ました時、不意に自分の周囲に彼の香水の香りを感じた。


翌日の午前にアミーラ王女に会いに行けば、彼女は泣き腫らした目で出迎えてくれた。
「ひどい顔でごめんなさい」
そう俯き気味に言った彼女は、心配そうな私の視線を受けて自嘲気味に笑った。
「昨日殿下に直接お断りされてしまいました。外交なしにしてもお気持ちには応えられませんって。」
そう言ってまた思い出したかのように、瞳を潤ませた。
「唯一と決めた女性がいて、その方と生涯共にすると決めているのだと、その方と引き離される事になれば、恐らく私を恨む事はあれ、愛する事はできないと…不幸にするだけだから諦めて欲しいと言われました。」
ポロポロと涙をこぼす彼女は、従者に渡されたハンカチで目元を拭う。
「そうですか」
こんな風に傷ついて泣く若い少女を目にしながら、それでもどこか心の中でホッとしてしまう自分に心のどこかで罪悪感を感じてしまう。
「ますます素敵で、その方を羨ましく思います。きっとそんなふうに思っていただいているのなら、相思相愛なのでしょう」
涙を拭ってお茶を飲んだアミーラ王女が自身に言い聞かせるように言って。
私に視線を向ける。
「王妃様も初めからご存知でしたの?」
非難するわけでもないその視線に、私は困ったように笑う。
「えぇ…まぁ。しかし私の口から申し上げるべきではないと思いまして」
私の言葉に、アミーラ王女も頷く。
「そうですよね…多分人伝てに聞いても私は納得しなかったと思います。殿下のお口からきちんと殿下のお心を聞けたからこそ、愛する人にまで恨まれてまで、引き裂く事はできないと思えました。」
正直、最初はお心に決めた方がおられようとも、国同士の利益や王族としての立場を引き合いに強引にでも首を縦に振らせるつもりでしたの。とにこやかに笑われて、私は背筋が冷たくなるのを感じた。
これは…対応を間違えていたら、なかなか大変な事になっていたのではないだろうか。
「王妃陛下も、お身体の大切な時期に、お騒がせして申し訳ありませんでした。でも来てよかったです。」
「お力になれなくてごめんなさい」
そう謝れば、彼女は首を振ってなんだか吹っ切れたように、笑った。
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