友達作りは計画的に

お昼も終わり午後一の授業は担任の教科だったのだが、翌週からは一般生徒の仮入部が始まるので帰りに話すのも面倒だからとこの授業の時間で軽く説明をすると言って案内のプリントを配布した


日程を見ると毎日ではないが、4月の後半からGWを挟んで5月後半まで予定されていて部活紹介試合や演舞の場所と日時が書かれていた


案内を読むと、仮入部期間は6月末までで、それまでは体験入部で複数の部活に1日のみの参加でもいいらしく、みんなは周りの人と話し出して教室内がザワザワしだしていた



『柔道と新体操の日程は……と……新体操は来週の火曜日で柔道はGWが終わってからか……まだ日数あるし良かった~』


岡崎は試合まではまだ日数があるので、とりあえず校内試合だから公式戦ほど身体を仕上げたり減量する必要もないので、鈍った身体を目覚めさせる程度なら十分な期間だから少し気持ちは楽になり周りの友達とも話てワイワイとしていた



先生の話によると部活紹介試合には一年生以外に二、三年生も多く見に来るらしく、どの部活も一応一年生は最前列や見やすい一角が確保されるらしいが早めに向かった方がいいとアドバイスがあった


「男女のバスケ、新体操、体操、は毎年人気だけど観覧席のスペースも限られてるから見れない人も出るので見たい人は早めに行けよ
あと、今年は何年か振りに柔道とハンドボールの一年生が強いらしくて注目されてるみたいだ
特に柔道場は本当に見れるスペースが狭いから見たいなら急げよ
まあ野球とサッカーは毎年人気だけど必ず見れるから焦らなくていいぞ」



通常はまだ中学から上がったばかりの一年生なので高校で数年練習してきた先輩達には負けるのは当然なのだかたまに先輩に勝ってしまう年代もいて、その可能性があるのが今年は柔道部とハンドボールの男子との噂が流れているらしい

そんな時はギャラリーの関係ない部活や帰宅部の先輩達も冷やかしがしたくて大勢集まるようで、例年ならゆっくり座って見れる部活も立ち見や入りきれないくらいに人で溢れるようだ



『マジか……確かに佐々木とか特待生組は既にレギュラー候補の強さだもんな……
何か俺だけ負けるのは恥ずかしいしヤバいな
あんな約束しなきゃ良かった』



そんな後悔をしながら先生の話を聞いていると、ナッチーはニヤニヤしながら岡崎を見てきて「ダッシュで最前列確保するよ!頑張ってね」とプレッシャーをかけるように言ってきた


「ヤバいなぁ……」



先生の話も終わりザワザワしていた生徒達だったが授業が再開されると一旦静かに授業を受けていた



授業も終わり、今日は部活の日なので部室に行くとちょうど二年生で仲のいいケンちゃんと金ちゃんの岡崎と同じ路線のコンビが着替えていた



「岡~ お前のクラスの可愛い新体操部の子に聞いたぞ
お前何急に出る気になってんだよ
あの子が好きなのか?」


「好きと言うか可愛いからついつい……
それは置いといて……ケンちゃんをボッコボコにする為だって」


「本当にムカつくヤツだな
お前にはマジでリベンジするから公式戦くらい超ガチでいくからな!」



ケンちゃんは隣の市だから違う中学で学年も違うので公式試合では対戦はない

しかし昇段試験は中学生から社会人までがランダムに振り分けられた五人組のグループで試合をして勝ち点の積み重ねで昇級や昇段をする仕組みなのだが、そこでケンちゃんとは一回試合をした事があり後輩の岡崎が勝っている事を一年以上経った今も根に持っているので岡崎は指名してきた先輩である彼に上から目線のようにわざと見下した顔をしながら言った



「まぁ君が強くなったかどうか……バカな挑戦者に体で教えてくれるわ!
ブハハハハッ」


「くっそ~っ 可愛げのない後輩だな
来月勝って立場を逆転してやるからな!」


「ムハハハハ~
ケンちゃんだけは本気でやるから返り討ちにしてくれるわ!」



柔道は基本的に縦社会なので自分より弱い先輩に対しても一応気を使ってはいるのだが、ケンちゃん金ちゃんのように一部の仲のいい先輩とは本人達からもこんな付き合い方でいいと言われていたので彼等にはこんな感じにしていた

そして、いつものバカなやり取りに他の部員達も笑って見ていて、三年生からは「アハハハハ ケンはどうせ負けるだろうから他の奴らで岡崎の連勝だけは阻止してやろ」と意味深な事を言って部室を出て行った



道場に全員が集まると練習前に先生から話があった


「校内試合の対戦カードも決まったから一年生で知ってるヤツもいるけど改めて説明するぞ」



この校内試合にはご褒美があるらしく、一年生は団体戦で4勝すると一年生全員に部活引退まで毎月一回は好きな時に休んでも良い権利が与えられる伝統があるらしい

そして個人では5勝すれば無条件でもう1日休みがもらえるらしく、4勝でも試合内容で先生が認めれば5勝扱いにしてもらえるのだと説明があり、岡崎はそれを聞いて目の色が変わった


『マジか!やった!
て事は団体戦はわからないけど個人で4勝すれば1日休みが増えるって事じゃん
絶対真面目に試合しよ』



しかし浮かれる岡崎に先生から厳しい現実が言い渡された



「このルールを決めてから約20年になるけど、一年生が団体戦で4勝したのは過去に二回だけだ!」



毎年1人か2人は飛び抜けて強い人がいるのだが、一年生だけのチームで考えると先輩達と渡り合う戦力が揃う事は滅多にないのでかなり難しい条件となっていたが、毎年一年生はこの条件に釣られて挑んでは玉砕して高校で最初の壁にあたるらしい



今年の三年生も夏の大会では優勝候補には挙げられていて全体的に強い人が集まってはいたが、2年前の当時の先輩達がさらに強くて2勝しか出来ずに終わっていて、今の二年生の二人は飛び抜けて強いのだが残りは飛び抜ける程ではなく団体戦としては一勝しか出来なかったのだと先生から一応の説明があった



『確かに高校で何年も練習してる人だから、そりゃ~実力差があるでしょ』


岡崎はそう冷静に考えながらも、今年は二人が県大会の重量級と中量級個人戦で優勝と準優勝でもう1人が団体戦優勝と、特待生のうち三人が即戦力のレベルにあって練習でも普通に先輩を投げたりしていて、今年はかなり期待が持てるメンバーが揃っていたので岡崎も期待していた



そして練習が始まるとなせか岡崎は先生に呼ばれた


「お前公式戦に出る気になったの?」


「いや……それは……ないです……」


「ふぅ~ん……まぁいいや
とりあえず校内試合は本当に出るんだろ?」


「はい 出ます」


「お前、休みを増やそうと考えてるだけだろ?
まぁいいや
そんな甘い考えのバカが毎年玉砕して泣きを見るんだからな
フッフッフッ とりあえず幻の優勝候補の実力を見せてもらおうか」


顧問は不敵な笑みを浮かべながら言うと岡崎は恐縮しながら「……本気で勝てるとは思ってないです……」と答え目をそらした



先生は基本的にやる気のある人にのみ心血を注ぐ性格で、岡崎などの規定回数ギリギリしか参加しない人や練習には参加するが手を抜く人などには怒りはしないが期待も指導もしない人なので、まだ何か言いたげだったが軽く頷いて「その確認だけだ もう行っていいぞ」と、それ以上は何も言われずに練習に戻るように言われた




練習後に金ちゃんケンちゃん山田の同じ市内の三人と帰り、途中で寄り道してご飯を食べながらゲラゲラ笑って話していた


「お前さ、あれ……先生、超何か言いたげだったよな」


岡崎達が入学前に新一年生の面子を見て先生は「今度の一年生、2年後に県大会くらい取れるメンバーが揃っちゃったよ」とかなり喜んでいたらしく、それぞれの話をしながら「佐々木、安田、新藤、岡崎が取れたのは超デカイぞ」と、その団体戦構想メンバーに岡崎も入っていたらしい



「嘘臭~っ だって俺は期待薄の推薦組だもん
推薦なんてオマケ入学みたいなもんだし」


「お前がうちに来る気があるなんて誰も思ってなかったから特待生枠なんて使えないだろ
しかも特待生枠が決まってしばらくしてから一応出しただけの推薦で来るなんて言い出すから先生が焦ってたんだからな」



岡崎は部活熱が冷めきっていたので特待生は全て断り、部活推薦でのんびり続けるか、柔道はきっぱり辞めて高校には一般入試で入ろうかとも少し思って悩んだ時期もあったので、この事に関しては自分のワガママなので何も文句を言えずに苦笑いをした



その後も先輩二人からはもっと練習に参加して来年団体戦に出ようと誘われたが、誘いをそらしながらうやむやにしていた



そんなレギュラー狙いよりも岡崎にとっては今後堂々と休みを増やせる校内試合に勝つ事の方がよっぽど大切だったので彼等の熱い勧誘にも全く心が動かされる事もなく右から左に頭の中を素通りしていた
< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop