友達作りは計画的に
入学式も終わり初日は半日なのであっという間に半日が過ぎ帰ろうと準備をしていると、他の人の所に行っていたナッチーが戻ってきて帰ろうとしていた岡崎に話しかけてきた
「お~い 岡ちゃん、岡ちゃん、ちょっと待って~
今から何人かでカラオケに行くから岡ちゃんもおいでよ
全員初対面同士だし、みんなで騒げば仲良くなりやすいしさ
行こうよ」
彼女の誘いは嬉しかったのだが岡崎の友達はカラオケに行きたがる人がいなかったので興味はあったが一度も行った事がなかったので、高校に入ったらカラオケには行ってみたいとは思っていたが音楽は普通に聞いてはいるけど普段から鼻唄すら歌わないし、中学までの学校行事である合唱発表会のクラス合唱や音楽の授業でしか歌った経験もなかったので自分が音痴かそうでないのかの不安もあっていきなりの誘いに本気で戸惑っていた
しかし、入学したてで相手の性格もわからないので変に言い訳をして断っても嫌な印象を与えてしまったり付き合いが悪いと言われて後々面倒になるといけないので断る前提で素直に言って反応を伺ってみる事にした
「実は俺、カラオケに行った事ないんだよ……だからまだ心の準備が……
ナッチーはよく行くの?」
「アハハハハッ
岡ちゃん面白~い
そんな体で何を女の子みたいな事いってんのぉ~
たかがお遊びのカラオケなんだから心の準備なんていらないし~
アハハハハ~ 超ウケる~
私は地元の友達とか家族でもとよく行くからさ、私が教えてあげるから私の隣に座りなよ
別に用事がないんだったらカラオケ初体験しよ~よ~
ねっ? 決定ね!」
もっとバカにしながら『じゃあいいや』と言われるかと思っていたが、ナッチーはそんな岡崎にも明るく誘ってくれたので断りのつもりで言ったのだが彼女の勢いに負けて行くと返事をすると、彼女の横に岡崎はまだ名前も覚えていないよく喋りそうな女子が来てナッチーと話した
「岡ちゃんカラオケ行った事ないんだって~
超可愛くない?
強制連行決定」
「あぁ~っ 何か真面目そうだからそんな感じする~
じゃあ岡ちゃんも参加ね
歌わなくてもみんなと話せば距離縮まるし損はないからおいでよ
ちなみに私は渡辺ヒカリ
よろしく
高校初カラオケだから楽しもうね~」
彼女達からすれば普通に誘っただけなのだろうが、中学まではこういうグイグイ来る女子がいなかった岡崎にとってはこんな事すら衝撃で戸惑ってしまう
しかし、女子以外に男子とも早く友達になりたかったので誰が来るのかはわからないが行くと答えてしまった以上は音痴と笑われてもいいと開き直り流れに任せる事にした
カラオケに行く集団に入って向かいながら話すと、一見あまり絡みたくないと思っていたチャラめの男子は予想通りの人もいたが見た目とは違って話しやすい人や実は高校デビューの人もいて少し安心しながら初めてのカラオケ店に着いた
『へぇ~ これがカラオケの部屋の中か……テレビとか雑誌で見た事あるのと一緒だ……予想してたより意外と広いな
でもキラキラした光がない明るい状態だと何か殺風景な感じだなぁ
おっ 上にクルクル回るボールもある!
これも始まったら回るのかな?』
目に入る物が全て物珍しい岡崎は室内をもっと興味深く見たかったが、あまりキョロキョロするとまた彼女達から笑われたりからかわれそうなので目だけを動かして室内を見ているとみんな慣れた様子で自由に座りだした
あらかじめ決めていたように座っていくので岡崎はどうしようか迷っているとナッチーは隣の席をポンポン叩きながら笑顔で手招きをした
「初心者の岡ちゃんはここだよ~っ
おいで~
お姉さんが教えてあげるニャ~」
『ニ…ニャ~?
ナッチーってそういう子なのか?』
彼女の語尾には気になったが、それを聞いて良いモノかどうかわからないので「ぁ…ぁぁ……はい」と今回はスルーしておく事にした
カラオケに向かいながら岡崎はカラオケが初めてな事やナッチーとのやり取りを他の人にも話していたのでクラスメイト達もわかっていたので、彼女の反対側にはチャラ男など明るい雰囲気の男女が座ってナッチー側を開けてくれていたようだ
岡崎がナッチーの隣の席に座るとその隣にはチャラ男っぽい横山が座って緊張気味に話かけてきた
「岡ちゃん初めてなんだ?
何かノリで来たけど実は俺も2回目なんだよ
カラオケ初心者の仲間がいて良かった~
俺マジで歌が下手だから何で来ちゃったんだろ……って感じ」
「そっか 俺も仲間がいて良かった
俺なんて人前で歌った事すらないから超緊張するよ
そもそもまともに歌えるかすら不安」
『下手だと自負してるなら俺なら絶対に来ないけど何で来たんだ?』と思いながらも自分が普通なのか下手なのかもわからない岡崎はツッコミも入れれずにとりあえず彼に同意しておき自分が下手な時の為に保険をかけておいた
そんな二人の会話を聞いてナッチーがニヤニヤしながら体で押すようにして岡崎にくっついてきた
「私の近くに来たって事は二人とも歌わせるからね~
横っちも下手でも自分が気持ち良く歌えば大丈夫だよ~
私なんて音程とかほとんど気にしてないもん
気楽に行こうゼ~
アハハハハッ」
岡崎と横山の二人以外は何度か来た事のある人ばかりのようで周りとワイワイ話しながらも慣れた様子ですぐに曲を選んでいた
反対側の席の人達から最初に入れた人が歌い出しているとナッチーは色々教えてくれながら自分の曲を入れて岡崎に何か入れるように催促してきた
「岡ちゃんは普段何聞いてるの?」
岡崎がいくつか答えると彼女は「あっ じゃあ私の好きなこれ歌ってよ」と岡崎が言った歌手の曲の中でもアップテンポな一曲を探して勝手に入れてしまった
「えっ、ちょっ……いきなりそれ?
テンションが……」
「アハハハハッ
マジ、マジ!
何でそんなに焦るのよ~
聞いてるんだから歌えるって!
とりあえず一曲歌えば開き直るし、勢いでいける曲の方が下手でも勢いで乗り切れるから大丈夫だって~
はいっ 次は横っちで、その次は由美ちゃんね
マイク隣に回した方が楽っしょ
私からこの順番だからね~」
横山の隣に座っていた女子は斎藤由美
肩にかかるくらいの黒髪でクール美人な顔立ちだが話すと明るい子で、ナッチーより彼女の隣に座りたかったとも思っていた
そんな女子二人に挟まれて岡崎と横山は緊張しながらも満足そうに四人で話していた
由美の話ではナッチーはギャルの中でもとりわけ明るい子らしく、由美もナッチーには興味津々だと言って笑っていた
岡崎は誰かが歌っている時にみんなは静かに聞くものだと思っていたが、周りも結構普通に話をしたりしてそれぞれに楽しんでいるが、一応歌も聞いていてたまに合いの手的な事をしたりなどかなり自由な事に驚きながらも楽しい時間を過ごしていた
そして喋っていたら曲を入れられた事も忘れていたが、いよいよナッチーから始まるこっちサイドの順番になった
「先に言っとくけど私はただ騒ぎたいだけであんまり上手くないから期待しないでね~」
「何一曲目から保険かけてんの
ナッチーの盛り上げ期待してるよ~」
斉藤の言葉にナッチーは「よ~しっ 一発目からテンション上げてこうか~っ」と、言って彼女は靴を脱いでソファーに立ち上がり元気に踊りながら歌い始めるとみんなも笑いながら彼女をもり立てていた
『本当に勢いで乗り切ろうとしてるくらいテンション高けぇ……
このテンションなら上手いとか音痴とか関係ないけど俺には絶対ムリだ』
ナッチーの歌唱力は本人が言うように確かに上手いわけではないが音痴とか下手というわけでもない
元気いっぱいに楽しそうに歌う彼女を見ていると彼女が言った『楽しく歌って騒げればいいんだよ』という言葉を頷けた
「イェ~イッ」
「イェ~イ ナッチー最高~っ」
彼女の言葉に周りも反応して盛り上がっていて、とても今日初めて会ったばかりの人同士とは思えないくらい騒いで楽しんでいるので岡崎もノリが悪いなど言われるのも嫌だから空元気で周りに合わせていた
ソファーの上に立っている事をまるで気にせずに彼女は軽くステップをしたり跳ねたりしているのを見ていると、スラリと伸びた白い足は太もも辺りまでの短い丈のスカートがヒラヒラする度にチラッと太ももから上へついつい目をやってしまう
するとちょうど目の高さ付近でなびくスカートの奥からツルツルした生地の白いパンツが丸見えになるシーンが何度もあった
『ぬぉぉ~っ
超ラッキー!!
来て良かった~』
岡崎はナッチーがこっちに来ないか心配そうに見上げるふりをしながらもニヤニヤとした表情で曲にはノッている感じを出しつつ見ていた
チラッと横目で横山を見ると彼も同じような表情で明らかに視線はお尻辺りにいっていて、彼と目が合うと顔を近づけ小声で言った
「岡ちゃん、ここの席って超ラッキーじゃね?」
「やっぱり見てた?
特等席だね
ガン見しすぎだからバレるぞ」
「アハハッ
確かに……
サンキュー、注意しとこ」
こういう話題はお互いを知らない者同士でも急に距離を縮めるきっかけになるので二人でニヤニヤしながら話しているとナッチーの曲も終わり、息を切らしながら何も知らずにスッキリした表情で座った彼女からマイクを渡された
「はい 次は岡ちゃんだよ
すぐに始まるから準備準備~
開き直って弾けちゃいなよ」
「あっ そうだ……次、俺じゃん……」
人前で歌うのは初めてだったので緊張はしていたが、先に歌ったナッチーからの雰囲気や横山との会話でいつになくテンションも上がっていたのでその勢いのまま開き直って歌い出した
「岡ちゃん全然下手じゃないよ
その調子~」
「イェ~イッ いいよ~」
「岡ちゃん、結構上手い方だよ」
ナッチーや由美、さらに逆サイドにいるクラスメイトなどからも盛り上がげながら応援されて岡崎も気持ちよく歌い終わった
「終わったぁ……
緊張するけど楽しいね」
「でしょ~
もうこれで全然大丈夫だね
私より全然上手いし~
他のも歌っちゃいなよ
由美で一周したら後は歌いたい人が自由に入れてるから次は岡ちゃんこれ歌ってね
これも私の好きな曲なんだ~っ」
ナッチーは笑顔で言うとまた勝手に入れてしまい、由美も横から「意外とナッチーって岡ちゃん気に入ってない? 男ならリクエストされたら歌わないと~」と冷やかすように言って笑い、横山が歌いだすと彼に対しても二人は盛り立てるように合いの手を入れてあげていた
ナッチーのこんな優しさと強引さに対して最初は『もしかしたら俺に気があるのか?』とも思ってしまったが、途中に「せっかくなんだからみんなとも話さないと!」と、誰かが提案すると席替えをしたり自由にバラけだし、岡崎も男女問わずゲラゲラ笑って楽しく話していた
そんな中でもナッチーを見てみると、みんなに対しても同じようにフレンドリーに接していて『まぁ彼女はこんな感じの子なんだから……こんなギャルが俺に好意あるわけないわな……』と冷静に考え直していた
その後も岡崎はなんだかんだ言いながらもギャルやノリのいい男子のように弾けたりはしないものの雰囲気には馴染めていて、逆サイドの人とも全員とまともに話ができて仲良くなれていた
「岡ちゃんて、真面目そうだし大人しい人かと思ってたけど結構砕けた人で楽しい人じゃん
これからは教室でも普通に話してきてね」
など、今日来なければしばらくは会話以前に挨拶すらもする事はなかったであろうギャル達からも受け入れられた事にホッとしていた
『嫌な印象にならなかったのは良かったけど、やっぱり派手ギャル達と話すと多少疲れるし、ギャル用語が所々わからん……』
初めてこんな騒がしい面子との遊びにドキドキしっぱなしだったが不思議と馴染んで楽しめていて、あっという間にカラオケの制限時間の三時間が終わった
「岡ちゃんと由美ちゃんは帰る方向が一緒だよね
こっち組は一緒に帰ろうよ
横っちは向こう方面だからここでバイバイだね」
「斎藤さんも同じ方向なんだ?」
「そうだよ
高畑台駅まではこの三人だけが一緒だよ」
他の人達も帰りは乗り換えや方向が同じ人同士でグループになり、お店から出るとそれぞれの方向同士のグループでの別行動になった
岡崎は簡単な自己紹介で二人の出身中学は聞いたが、それがどの路線で行けるのかまではまだよくわかっていなかったので彼女達の誘いに驚いていた
「私は本線でそのまま行くけど岡ちゃんと由美ちゃんは高畑台駅で乗り換えだよね」
高畑台駅は複数路線の乗り入れがあるターミナル駅だが、まだ他の路線が何市方面かがわかっていなかったので、友達と遊ぶ時に大体の方面がわかってないと話や待ち合わせがしにくくなるのだと気付いた
帰りながら話していると、ナッチーは高畑台駅のある市から2つ先の市に住んでいるらしく、由美は岡崎とは別路線に乗り換えてから30分くらい先の駅で降りるようで岡崎も乗り換えてからは各駅停車しか走っていない単線路線なので家に着くまでは30分以上はかかると話すとナッチーが言った
「そっか~ じゃあ私が一番遠いけど特急電車で行けば一番速く帰れるんだ?
何か笑える~」
岡崎達以外にも車両内にはいくつかの真新しい制服姿のグループが探り探りな会話をしていて、いかにも4月らしい賑やかな車両内でも彼女達二人の明るい声は周りの声にかき消されない力があった
近くの男子高生から「あの仲浦の二人組の子、可愛いな」と無駄に注目をされて岡崎は少し恥ずかしさもあるが二人は聞こえていない様子で、数年来の友達のように違和感もなくゲラゲラ笑って喋っていた
女子と仲良くしたいとは思っていて、可愛い子と話すまでにはまだ時間がかなりかかると思っていたのだが、伊東以上に可愛い斉藤やギャルのナッチーと帰れる事に内心浮かれながら高畑台駅まで戻ってきた
「じゃあ二人ともバイバ~イ
これからよろしくね~」
「よろしく
バイバイ」
「うん これから楽しくなりそうだね
また明日ね~」
斉藤と二人で笑顔で電車を降りるとナッチーもニコニコと笑顔で手を降って彼女を乗せた電車は走って行った
二人になり乗り換え路線まで歩きながら話していて、見た目はクールで美人寄りな斉藤から「この駅で降りるなら今度その辺りにいいお店ないか探検に行こうよ」と誘ってもらえたので即答で「うん」と答え、お互いの乗り換えホームの階段で別れた
『いやぁ~ 超良かった~
しかし本当に可愛い子の多い高校だな
しかしナッチーは天然っぽい思わせ振りな接し方するギャルだけど結構優しいよな……
カラオケに行かずに学校であんな接し方されてたらすぐに好きになっちゃいそうだった……
それにしても斉藤さんは冷めた美人なクールギャルかと思ってたけど話すと結構お喋りだしナッチーへのツッコミも毒舌気味だし何か面白い子だったな
それに今度はご飯かカフェに行けるしメチャ楽しみだ
仲浦に行って良かった~っ!』
一人になると初日からこんな子達と仲良くできた事にガッツポーズをしたいくらい嬉しかったが堪えながら出発時間まで停車中の電車で座って待っていると、中学の友達が二人入ってきてそれぞれの高校の話をしながら楽しく帰った