終わらない夢 II
「高校一年のとき、隣に座ってた女の子に一目惚れしたんだ。自分でもびっくりしたよ、一目惚れって本当にあるんだなって」


『よ、よろしく』
『紅馬くんだよね。よろしく』


「まさか自分の名前が覚えられてるとは思わなかったから、驚いたよ。仲良くなって、そのうちもっと惹かれていったんだ」


『紅馬くん!一緒に帰ろ!』
『おう。…送ってくよ』
『へ?』
『な、なんでもない!さ、行こう』


「当時は張り切ってなあ。空回りすることだって、何回もあった。それでも楽しかった」


『紅馬くんの卵焼きもらいー!』
『あっ、ずりい!じゃあ俺もご飯食ってやる』
『ひとくち大きくない!?』
『へへっ』


「そんなこんなで進級して、また同じクラスになれた。あの時ばかりは神さま仏さまって感じだったなあ。泣きそうだったよ」


『紅馬くん、また隣だね』
『そ、そうだな。変わり映えしないな』


「秋の修学旅行も、とても楽しかった…はずだったけどな。運悪く、ハイジャックに遭ったんだ。怖いなんてもんじゃなかったけど…万由子を守るためなら怖くなかったな」


『全員携帯を俺に預けろ!!』
『紅馬くんっ…』
『大丈夫だ。俺が守るから』


「ロクに楽しめなかったけど、ある意味思い出になった。本当は、修学旅行の時に告白しようと思ってたけど、できなかった」


『お前、たしかこれ好きだったよな…ん?』
『「お前」じゃありませーん』
『え?』
『…名前で呼んでよ』
『…万由子…さん?ちゃん?』


「慣れないことはするもんじゃねえなって、心の底から思ったのは、あれが初めてだったかもな。女の子の名前なんて、呼ぶことなかったし」


『慣れないなあ』
『はい、練習!』
『万由子サン…』
『そんな緊張しなくてもいいのに』


「そんなこんなで、三年生。同じクラスにはなれなかった。その時は、とても怖かったな。だれかに取られるんじゃないかって」


『紅馬くんと、離れ離れだね。まともに話せるのも、お昼と放課後くらいか』
『…これからも、いっぱい話そう!んで、もっと遊ぶんだ!』
『私たち、受験生だよ?』
『あっ…』


「そして、体育大会の日。俺は帰り際に告白したんだ。ついに伝えたんだ。でも、フラれた。あれはいつまで経っても忘れられないな…」


『もっと…早く言ってほしかった』
『え?』
『付き合ってる人がいるの。ごめんね…』
『そ、そんな…』


「とてもショックだった。しばらく何もする気は起きなかったな。でも、印象的だった言葉もあるんだ」


『幼馴染の侑っていうやつがいるんだけどね。そいつ、最近変なことし始めるんだよ。急に暴れ出したり、暴言を吐きまくったり…まるでお酒を飲んだみたいに』


「今じゃ、それの意味はなんとなく分かるけど。当時は理解できなかった。大丈夫だって気持ちが、心のどっかにあったんだろうな。…それから、卒業式の日に、向こうから告白してきてくれたんだ」


『傷つけたかもしれないけど…ごめんね』
『え?』
『私…紅馬くんのこと、好きなの。大好きなの』
『えっ…と…』
『…乗り換えたって、思うかな』
『思うわけないっ…』


「まだ好きだったんだ、だから告白してくれるとは夢にも思わなかった。…何も考えず、ただ嬉しかったな」
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