物語の森

アンティークに囲まれた書斎。この家で一番念入りに作らせた場所といっても過言じゃない。自分もそれなりにこだわって注文したつもりだったのだか、それ以上に細かくしつこく……とにかくうるさい誰かさんのせいで、仕立て屋から睨まれたのを昨日の事のように覚えている。



神崎語は新鮮な空気を入れるために、一度窓を開ける。



『いい風ですね。ここに来てもう一年、は経ったでしょうか。こんな形で貴方と共にするようになるとは……神様は悪魔かなにかでしょうか』

「神様に失礼だろ。はあ、よりによってなんで隣街の遠い本屋まで足を運ばなきゃいけないんかね」

『貴方が私の足だからです』

「いやいや、俺が尋ねてるのは理由だ。お前また勝手に仕立て屋に頼んだだろう」

『いいじゃないですか。私の声が聞こえるなら、すなわちこき使ってもいいってことでしょう?』

「お前の声が聞こえるやつに同情するよ」



どうしたらそういう思考回路になるんだと言いたくなったが、そろそろ出かけないと間に合わない。ご丁寧に時間指定までしてある。神崎語が書斎を出ていこうとすると――。



『あと、仕立て屋のとこにいって、私の荷物受け取っておいてくださいね』

「はあああ?帰り遅くなるじゃねーか」



本屋より、さらに遠い。神崎語の不満を無視し、爽やかな挨拶で見送られる。



『ええ、くれぐれも乱暴に扱わないようにお願いしますね――いってらしゃい』



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