涙の涸れる日
 空いた席を見付けて向かい合って座る。

 高梨先輩はアイスコーヒー。私はアイスミルクティーを注文した。

「会社、この近く?」
と聞かれた。

「ここからなら地下鉄で二駅です」

「そうか。あぁ、名刺」
先輩は名刺入れから一枚抜いて差し出した。

「ありがとうございます。大手の化粧品会社にお勤めなんですね」

「そう。男なのにとか思うのかな?」

「そんな事ありません。近頃は男性も化粧する時代ですし」

「ははっ。俺はしないけどね」

「あぁ、私も」
バッグから名刺入れを出して渡す。

「本多不動産。へぇ、秘書なんだ。凄いね」

「全然凄くないです。父の会社なので」

「そうなんだ。大学の頃、良いとこのお嬢さんだって噂してたのは本当だったんだ」

「そんな事ないです。普通ですよ。会社は兄が継ぐので」

「お兄さんいるんだ」

「はい。四つ上の兄が」

「家も兄貴がいるけど、獣医してて北海道に居るよ」

「獣医さんなんですか。動物好きなんですね」

「そう。子供の頃から決めてたみたいだよ」

「凄いな。私なんて就活もしないで父の会社に入って楽してるから。尊敬します」

「まあ、兄貴には昔から何をしても敵わなかったなぁ。それが嫌じゃなかったけどね」

「お兄さんと仲良いんですね」

「そうだね。五つ違うからケンカ相手にもならなかったしね」

「そうですか」

 先輩とお茶しながらお喋りした。


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