涙の涸れる日
 マンションに帰りソファーに凭れて目を閉じる。

 そうだ。俺はこういう男だった。

 紗耶に出会わなければ、就職も出来ずに、ホストでもしてたかもしれない。

 紗耶がいたから俺は変われた。

 いや、違うな。

 紗耶の前では、良い男を演じていたのかもしれない。
 こういう男でありたいという理想像を。


 だから、由布子だったんだ。
 あの程度の女が俺には相応しかったんだ。



 きょうから有給消化で会社には行かない。

 シャワーを浴びて見知らぬ女の甘過ぎる香水の残り香を洗い流す……。

 

 冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲み干す。

 何故だか、兄貴の声が聞きたくなった。
 携帯を取り出し電話を掛ける。

「どうした? お前から掛けてくるなんて」

「そうだな……」

「元気か?」

「元気ではないな」

「何かあったか?」

「紗耶と離婚した」

「はぁ? お前、何をした?」

「ははっ。そうくるか」

「どうせ女だろ?」

「お見通しか」
渇いた笑いしか出ない……。
「俺、ニューヨークに飛ばされる」

「はっ? ニューヨーク? お前、英語出来たっけ?」

「いや……」

「会社もバカだな。お前がニューヨーク行って何が出来る?」

「…………」

「良かったら、こっちに来い。寝る所くらいはあるぞ。仕事も肉体労働ならいくらでもある」

「北海道か……」

「あぁ。良いぞ。自然と共に生きてる気がする」

「行こうかな? いや、俺、行くわ」

「分かった。さっさと面倒な事、片付けて来い」

「兄貴……」

「何だ?」

「ありがとう。宜しく頼む」

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