涙の涸れる日
 縁側に座って庭を眺める。
 昔と変わらない緑の溢れる庭。
 山桃草が可憐な白い花を咲かせている。

「紗耶はゆっくりしてらっしゃい」

 お祖母ちゃんが夕食を作ってくれている。

 そういえば料理も随分してないなと気付く。

 みんなに心配を掛けて……。
 何やってるんだろう私……。

「紗耶、支度出来たわよ」

「はーい」
こんなやり取りも懐かしい。

「美味しそう」

「きょうはね。お茶のお弟子さんのご主人が鮮魚店をされてて、良いカツオが入ったからって持って来てくださったの」

「凄く新鮮なのが良く分かるお刺身ね」

「あら。紗耶もそういうのが分かるようになったのね」

「バツイチですからね」

「フフッ。そうね。主婦してたのね。あの可愛かった紗耶が。さあさ、頂きましょう」

 カツオの刺し身を生姜醤油で、それとほうれん草のお浸し、胡麻豆腐に、お祖母ちゃんの漬けたぬか漬け。

「美味しい」
ご飯が美味しいって思うのも久しぶりだ。

「胡麻豆腐も好きだったでしょう?」

「覚えてるんだ」

「大事な孫の好きな物はちゃんと覚えてますよ」

「さすが、お祖母ちゃんだね」
本当に美味しく食事が出来た。何か月振りだろう……。

「ごちそうさま。後片付けは私がするね。お祖母ちゃんは休んでて」

「ありがとう。じゃあ、お願いしようかしら」



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