涙の涸れる日
「紗耶、カメラテスト受けてくれない? それでダメなら諦めるから。ねっ」

「紗耶の新しい一歩になるかもしれないよ」

「気持ちを切り替えるチャンスだと思って」

「でも……」

「私、イケる気がするのよ。紗耶の良さが分からないようなボンクラカメラマンなんて、こっちから願い下げよ」

「桜子……」

「桜子、あんた強くなったよね。あの天然美人がねぇ」

「善は急げよ。電話してくる」
桜子は携帯を持って店の外に出て行った。
間もなく戻って来て

「明後日に決まったから」

「えっ? そんなに早く?」

「紗耶、女は度胸よ」

「それ違わない?」

「とにかく、カメラテストの約束取付けたから。車で迎えに行くよ。十三時に行くから」

「明後日の午後一時ね。分かった。ねえ、何を着て行けば良いの?」

「紗耶が一番紗耶らしいと思うスタイルで良いよ」

「私らしい?」

「頑張っておいでよ」

「気楽に行っておいで」

「うん……」

「じゃあ、モデルの紗耶誕生に乾杯しよう」

「もう、まだカメラテストが決まっただけよ」

「いいや。紗耶の良さは私たちが一番良く分かってるのよ」

「そうよね。大学時代に本物のミス・キャンパスって言われてたの知ってる?」

「えっ? なにそれ」

「紗耶さぁ、どんなに出てって言われても絶対にそういうのに興味もなかったでしょう?」

「うん。なかったよ」

「みんな言ってたよ。紗耶になら投票するのにって」

「えっ? 嘘」

「ほらね」

「紗耶は紗耶だもんね」

「何それ。酷くない?」

「いつもの紗耶に戻った」

「そうかな?」

「うん。とにかく何がチャンスになるか分からないもんだよ」

「紗耶らしく頑張っておいで。ね」

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