涙の涸れる日
 僕は佐伯商事を始めとする総合商社佐伯グループの代表取締役社長、佐伯龍太郎の四男。

 息子が三人も居れば充分じゃないかと思うが……。

 母親の遥乃が、どうしても女の子が欲しいと四人目を妊娠……。
 が、また息子が生まれて、流石に女の子は諦めたらしい。

 小さな頃から女の子みたいに育てられたせいなのか、女の子と居ても全く違和感なく過ごせる。

「えっ? 男の子なの? なんて可愛いんでしょう」
そう言われ続けてきたせいなのか……。

 兄貴たちとは少し歳も離れているせいか、あまり遊んだ記憶はない。

 長男の貴継(たかつぐ)は七つ違い。その下二人も年子で、六つ上の賢匠(けんしょう)と五つ上の規智(のりとも)。まだ全員独身だ。

 歳が離れてるせいか兄たちには可愛がってもらった。

 長男はいずれ父親の跡を継いで社長になるだろう。
 二男と三男も、グループの何処かの会社の社長になるのは間違いない。

 僕は、一人くらい会社を継がなくても良いかと、一時は画家を本気で目指そうと美大受験を考えていた。

 父親に
「それも駄目だとは言わないが……」
とは言ってくれたが……。

 せっかく、この家に生まれたのにと考え直し、美大受験は止めて、高校の時イギリスに留学させてもらった事だし英文学科に入学した。


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