涙の涸れる日
 そして一週間が経った。
 撮影当日……。

「おはようございます」
と入って行くとメイクアップアーティストやスタイリスト、ネイリストに連れていかれる。

「うーん。肌は綺麗ね。キメが細かくてメイクの乗りは良さそうね」

 ややブラウンのロングヘアーもホットカーラーを巻かれ、爪もネイリストに装飾される。

 三十分もすると鏡の中の自分が誰? って思う位に変化していて驚いた。

「さぁ、着替えようか。先ずはこれね」
と春のパステルカラーのワンピースを渡される。

 半年先の創刊号は四月号。春らしいスーツやワンピースは来年の春に店頭に並ぶ予定のサンプルをメーカーから借りているそうだ。

 支度も出来てスタジオに入ると

「さやちゃん、いいね。パステルカラーがとても似合ってるよ」
と亀井編集長。

「じゃあ、行こうか」
と武田カメラマンがカメラを構える。

 アシスタントに立ち位置を教えられ白いパンプスで歩いて行く。

「そのまま、振り向いて」
と言われ振り返るとカシャッとシャッター音。

 ライトが眩しくて、でもそれが幻想的で別の世界に来たみたいに何故か笑顔になれた。

「紗耶、輝いてる。やっぱり向いてるよ」
と桜子が呟いていたのは聞こえなかった。

 衣装を五パターン着替えて、それに合わせてヘアメイクもネイルも替えて撮影した。

 不思議と疲れたとは思わなかった。


「はい。お疲れさま」

「お疲れさまです」

「お疲れさまでした」

 何だか良く分からない内に撮影が終わった。

「桜子ちゃん。さやちゃん、かなり反響が来ると思うよ」

「そうですね。私も思っていた以上で驚いてます」

「売れっ子モデルになりそうだね」

「楽しみです」

「家で専属契約結んでおくかな?」

「それは本人と相談してからですね」

 なんて話が進んでいるなんて……。

 衣装を脱いで、メイクを落としてもらっている私は全く知らなかった。


< 127 / 152 >

この作品をシェア

pagetop