涙の涸れる日
「彼女がバツイチだから許してもらえないと思ったのか?」

「うん。まぁ、反対されても結婚するつもりだけどね」

「あぁ、頑張って今度こそ他の奴に取られないようにするんだな」

「うん。何か安心したよ。それからもう一つ……」

「まだあるのか?」

「僕、会社を辞めようと思ってる」

「どうしてだ?」

「絵を描いて暮らそうと思ってる」

「絵か……。お前は美大志望だったな?」

「うん。でも兄さんたちに会社を押し付けて自分だけ好きな事をするのは気が引けて……」

「趣味として絵を描いていくならともかく、画家で生きていけるのか? 結婚するつもりなら尚更金銭面で彼女に苦労を掛けるような事は……」

「うん。分かってる。そんな事で彼女に苦労はさせられないから……」

「だったら考え直した方が良いんじゃないか?」

「うん。そうだよね……」

「お前もいずれは何処かの会社を任されるだろう。仕事は大変だとは思うが生活の心配はない。彼女を守るって事はそういう事じゃないのか?」

「うん。もう一度、良く考えてみるよ」

「そうだな」

「ありがとう。相談して良かったよ」

「ちゃんと彼女を口説き落として、最初に俺に紹介しろよ」

「あぁ、分かったよ」

 女将の計らいで、料理が運ばれて来た。
 久しぶりに二人で美味しい和食を堪能した。


< 130 / 152 >

この作品をシェア

pagetop