涙の涸れる日
「イギリスに行く事を考えているのか?」

「うん。ホームステイさせてもらってた家族が住んで欲しいと言ってくれてる」

「そうか……。で? 彼女も連れて行くのか?」

「えっ?」

「規智から聞いたよ。良いお嬢さんだそうだな」

「うん。純粋な優しい子だよ」

「バツイチだと聞いたが……」

「うん。辛い結婚だったみたいだ……」

「煌亮が幸せにしてやれば良いだろう」

「父さんが母さんを幸せにしたように?」

「そうだな。母さんも辛い経験をしてるからな……」

「規智兄さんから聞いたよ」

「そうか。煌亮が一番、俺に似てるのかもしれないな」

「そうかな?」

「会社を辞めるのには、一つだけ条件がある」

「条件って?」

「家の会社の株主になってもらう」

「はっ?」

「もう煌亮の名義で用意してある。配当だけで二人で食べていける位はある」

「えっ? でもそれじゃあ……」

「毎年、株主総会には帰って来い。それが条件だ」

「父さん……」

「あのタワーマンションもそのまま煌亮名義にしておくよ。キチンと掃除も頼んでおくから」

「そんなの申し訳ないよ。我儘を通させてもらうのに……」

「申し訳ないのは私の方だよ。お前の人生を八年も遠回りさせてしまった」

「遠回りだとは思ってないよ。父さんの仕事の大変さも分かったし。それに美大に行ってたら彼女には出会えなかった」

「そうか」

「うん。父さん、ありがとう」

「画家を志すのなら一流の画家になれ。みんながお前を見守ってる」

「分かった。必ず期待に応えられる画家になるよ」


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