涙の涸れる日
 翌日には紗耶の母親と連絡を取り、四人で有名なドレスショップに出掛けた。

「紗耶ちゃんは、どんなドレスも似合ってしまうから、選ぶのが難しいわ」

「そんな……。とんでもない」

「可愛い娘が出来たのよ。こんなに嬉しい事はないの。私の夢だったの。娘とウェディングドレスを選ぶのがね」

 紗耶はまるで着せ替え人形のように試着をしていた。まあ、母さんの気持ちも分かるから……。
 これも親孝行だと思っている。

「やっぱり、これが一番似合うかしらね」

「そうですね。私も紗耶に合うと思います」

「はい。これにします。煌亮、どうかな?」

「うん。綺麗だよ」

「もう、煌亮は紗耶ちゃんが着れば、どれでも良いんでしょう?」

「まあ、そうかな」

 母親二人の意見を尊重して決まったのは……。

 真っ白なレースの襟元の詰まった長袖のマーメイドラインのウェディングドレス。

 上品で華やかさもある、紗耶に良く似合う素敵なドレスだった。
 


 
 婚約パーティーも兼ねた両家の顔合わせの食事会もホテルで開いた。

 この席で紗耶に僕が選んだ婚約指輪を贈る。プラチナに上質なダイヤモンドが煌めくシンプルで上品な指輪を紗耶の左薬指にはめると……。

「ありがとう……」

 皆から祝福の拍手をもらって食事会を始める。

 父親たちは以前から顔見知りだったようで話も弾んでいるようだ。

 母親二人は紗耶の事を大切に思っているのが紗耶を見詰める優しい眼差しで良く分かる。

 嫁姑問題など起こりそうな気配すらない。

 規智兄さんと紗耶のお兄さんの凌太さんは元々大学の先輩後輩だから、話が弾まない訳がない。

 貴継兄さんと賢匠兄さんも、それに加わって和気藹々で、両方の家族が、とても打ち解けて心に残る温かい食事会になった。

 紗耶の家族にイギリスに行く事も快諾してもらえた。感謝しかない。


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