涙の涸れる日
 きょうは、樹里と里香、桜子に割烹信濃に来てもらって食事をしながら、これからの事を話そうと思っている。

「来てくれてありがとう。報告したい事があって来てもらったんだ。紗耶と結婚する事になった」

「おめでとう。紗耶、煌亮」

「煌亮の長い片想いが実ったって事ね」

「煌亮が紗耶を好きなのは、みんな知ってたからね。良かったね」

「ありがとう。それで、これからの事なんだけど、十一月に入籍して十二月に二人でイギリスに行く事になった」

「えっ? イギリス? 旅行で?」

「いや。ロンドンの郊外に住むんだ」

「煌亮、仕事は?」

「会社は辞める事になった」

「辞めてどうするの?」

「絵を描いて生きていこうと思っている」

「画家になるの?」

「うん。今年、オランダとルクセンブルグで賞をもらって画家として生きていこうと決めたんだ」

「もう帰って来ないの?」

「いや。佐伯の株主にもなってるから毎年株主総会には帰って来るよ。勿論、紗耶と一緒にね」

「どういう展開なの。頭が付いていかないんだけど……」

「でも二人が幸せになるのは嬉しいよ」

「紗耶。モデルは続けられなくなるよね?」

「うん。ごめんね。桜子には色々良くしてもらったのに……」

「そうか。相手が煌亮なら仕方ないなぁ。あ、でも年に一度は帰って来るのよね? その時にモデルの仕事出来ないかな?」

「桜子。ごめん。紗耶は僕だけのモデルになるから」

「えっ? どういう事?」

「向こうで落ち着いたら先ず紗耶をモデルに描こうと思ってる」

「煌亮の専属モデルになるのか。うん。残念だけど諦めるよ」

「ごめんね」

「紗耶の幸せの方が大切だよ。煌亮なら大丈夫。紗耶、きっと幸せになれるからね」

「でもイギリスか……。遠いよね」

「紗耶は英語は大丈夫だもんね。困るような事はないよね」

「それは……。行ってみなければ分からないけど」

「煌亮が居るんだから安心してるよ」

「うん。何とか頑張ってみるね」

「煌亮。イギリスまで紗耶も連れて行くんだから、良い絵を描いてね」

「うん。ありがとう」

 その日は皆で飲んで食べて、暫く会えなくなるから思いっきりお喋りした。

 年に一度、帰って来た時には必ず集まろうと約束した。


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