涙の涸れる日

ウェディングドレス

 十二月……。

 真っ白なマーメイドラインのウェディングドレスを身に着けた紗耶と黒いシックなタキシードの煌亮の姿がロンドン郊外の古城に美しく映えていた。

 参列者はいないけれども二人だけの神聖な式だった。

 二人の左手の薬指にはお揃いのプラチナの結婚指輪が輝いている。


「さやちゃん?」

「えっ?」
 
 日本語で呼ぶのは……。
 ファッション誌のカメラマンの武田さん。

「武田さん?」

「久しぶりだね。撮影?」

「あ、いいえ。実は結婚しました」

「えっ? そうなんだ。美男美女だから、てっきり撮影だと思ったよ」

「あぁ。えっと主人の佐伯です」

「初めまして。紗耶が以前お世話になったそうで」

「武田です。モデルはもうやめるって事?」

「はい。武田さんに撮って頂いたのが最初で最後になりました」

「そうか……。勿体ないね」

「とんでもない」

「さやちゃん、カメラを向けると表情が変わるんだよ。天性のモデルだと思った」

「そんな……。武田さんミラノじゃなかったんですか?」

「きょうは撮影休みだから、古城を撮りに来たんだ。そういえば写真は? 撮らないの?」

「引っ越しでバタバタしてて写真の事はすっかり忘れてました」

「撮ってあげるよ」

「えっ? 良いんですか?」

「古城をバックに美男美女。しかもウェディングドレスだよ。是非、撮らせてもらいたい」

「ありがとうございます」

 武田さんは色々なポーズで何枚も撮ってくださった。

「現像したら送るよ。住所を教えてくれるかな?」

「あ、はい。こちらに送って頂ければ……」
煌亮が出来たばかりの名刺を渡した。

「えっ? こっちに住んでるの?」

「はい。まだ数日ですけど」

「アトリエって?」

「一応、画家です。まだまだ駆け出しですけど……」

「そうなんだ。じゃあ最高のモデルが毎日傍に居るんだね」

「はい。最初に紗耶を描くつもりです」

「そりゃそうだよね」
武田さんは笑っていた。
「いずれ古城の写真集を出す予定なんだけど、きょうの写真を使わせてもらっても良いかな?」

「ありがとうございます。光栄です」

「さやちゃんのウェディングドレスを表紙にしようかな?」

「えっ? それは止めてください。恥ずかしいですから」

「うん。でも必ず使わせてもらうから。じゃあ元気で。お幸せに」

「ありがとうございました」


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