涙の涸れる日
 病院の最寄り駅前で待ち合わせた。

 早目に着いて待っていると、紗耶が現れた。きょうは秘書らしいスーツ姿にハイヒールではなく、パステルカラーのデザインカットソーに白い膝丈のフレアースカート。足元はリボンの付いた低めのパンプス。

 大学の頃も、こんな感じだったなと懐かしさに胸が躍る。
 でも確実に綺麗に大人になった姿に惚れ直しそうだ。

「遅くなってごめんなさい」

「まだ時間前だよ」

「お花を買おうか考えたんですけど、今、病院はお見舞いのお花を禁止している所もあると聞いたので諦めました」

「そうなんだ。知らなかった。じゃあ行こうか」

「はい」
 彼女の笑顔が俺だけに向けられた特別な物のような気がして頬が緩む。
 何だかデートみたいだと思っているのは俺だけだろうな……。 

 病院の受付で
「藤崎さんのお見舞いに来たんですが」

「はい。高梨様と本多様ですね」

「はい」

「ご案内します。どうぞこちらへ」
大部屋でもなく個室でもなく特別室フロアに入院されているようだ。

 いったい、あのおばあさんは何者?

 ドアをノックして
「高梨様と本多様がおみえになりました」

俺たちは顔を見合わせた。

「はい。どうぞ」
病室から声が聞こえる。

「では私は失礼致します」
と受付の女性は戻って行った。

 中からドアが開いてスーツの男性が
「よく来てくれました」
笑顔で招かれた。


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