涙の涸れる日
幻のモデルさや

樹里、里香、桜子

 翌年三月。ここはいつもの居酒屋。

 樹里と里香、桜子が三人で飲み会をしている。

「何か、紗耶が居ないと寂しいよね」

「まあさ、二人はイギリスでラブラブなんだから仕方ないよ」

「そういえばね。紗耶が表紙モデルしたファッション誌、売れに売れてるの」

「見た見た。紗耶めちゃめちゃ綺麗に笑ってて驚いたよ」

「カメラマンの武田さんがね。紗耶は天性のモデルだって言ってたよ」

「どういう事?」

「カメラ向けるとね。スイッチ切り替わるみたいに笑顔になるらしいよ」

「あの頃はまだ辛い時期だったのにね」

「健気だよね。紗耶ってさ」

「出版社にメールが殺到してるんだって。表紙モデルの『さや』って何処の誰ですかって。プロフィール教えて下さいって」

「紗耶はそんな事、全く知らないんだよね」

「メールは入れたけどね。ファッション誌も国際郵便で送っておいたよ」

「煌亮だけのモデルか……」

「どうしたの? 羨ましい?」

「そりゃあ、羨ましくないって言ったら嘘になるけどさ」

「セレブでイケメンで画家で、おまけにイギリス在住だよ」

「優しいし、一途だしね。煌亮ってめちゃめちゃ優良物件だったよね」

「まあ、紗耶以外は目にも入らなかったと思うけど」

「今頃、何してるのかな?」

「時差八時間でしょう? アフタヌーンティーでもしてるんじゃない?」

「はい。飲むよ」

「煌亮より良い男、見つけてやる」

「はいはい」

「あっ。馬鹿にしたでしょ?」

「ううん。健闘を祈ってるよ」

「はい。かんぱ~い」


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