涙の涸れる日
 就職して父親の会社で秘書として働き始めて、仕事で取引先に行った帰り道。

 私の目の前で、おばあさんが倒れた。

 そこに偶然にも現れて、救急車を呼んでくれたのが高梨先輩だった。

 驚いた。こんな偶然ってあるんだ。

 でもそれより驚いたのは、高梨先輩の姿。

 短い黒髪で、もちろんピアスもしてない。
 スーツを着こなす大人の社会人の高梨先輩。

 大学の頃の、出来れば遠ざけたい軽いイメージは皆無だった。

 だからかな?
 お茶に誘われても嫌じゃなかった。
 目の前のカフェだし、昼間だし……。
 正直、喉もカラカラだったから……。

 カフェでお茶しながら話した。
 社会人としてキチンと働いている誠実そうな男の人って感じがして、かなり印象が変わったと思う。

 警察から連絡もあるかもしれないし、お互い名刺に携帯番号も書いて交換した。

 お元気になられた、おばあさんのお見舞いにも一緒に行った。

 その後、美術館に誘われた。
 行ってみると私の大好きなフェルメール展で、とても感動したし嬉しかった。

 私がフェルメールが好きだとは知らなかったと思うけど、でもこれで高梨先輩の好感度がかなり上がったのは間違いない。


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