涙の涸れる日
 高校まで規則が厳しく、髪を染める事も出来なかった反動で卒業するとすぐに里香は肩までの髪を赤みの強いブラウンに、樹里はショートヘアをアッシュブラウンに染めてきた。

 私は元々色素が薄いのか染めてるの? と聞かれる位のブラウンカラーだったので二人の様に卒業後にヘアサロンに直行する気もなかった。

 自然なストレートのロングヘアはお気に入り。メイクも極薄目でナチュラルなのが好きだったから大学生になったからって変化は特別ないだろう。

 でも制服を脱いで好きなファッションで出掛けられるのは楽しかった。高校の時も休日はそれなりにお洒落をしていたけれど。毎日の洋服選びは女の子にとって至福の時。


 源氏物語オタクの里香と英語の苦手な樹里は国文学科。私は好きな英語を学びたくて英文学科を選んだ。だから時々二人とは別の講義になる。
 
 五月に入り大学生活にも少し慣れてきた。

 お昼を大学のカフェで三人で過ごし、里香と樹里は、じゃあ行くねと笑顔で手をヒラヒラさせて講義に向かった。

 一人で居てもつまらなくて私は外に出て芝生の近くのベンチに座って次の講義の準備をしていたら

「君、一年の本多紗耶さん?」
と声を掛けられ顔を上げると……。

「俺、三年の高梨佑真。噂には聞いてたけど傍で見ると本当に可愛いね」
軽さ全開の彼が笑顔で隣に座ってきた。

「何ですか?」
私には警戒心しかない。

「君と話したいと思って」
茶髪にピアス、黒のカットソーに白いパンツで組んだ足は嫌味なほど長くモデルのバイトでもしてるんだろうかと思う程。

「どうしてですか?」
正直めんどくさいとしか思わなかった。

「付き合ってる彼でもいるの?」
この聞き方はいないと確信しているみたい。
正直ムカつくわ。

「そんな事聞いてどうするんですか?」
私に彼がいてもいなくても、この男には関係ないじゃないの。

「俺と付き合わない?」
ちょっとばかりイケメンに生まれたからって誰でもホイホイついて行くとでも思ってんの?

「お断りします。私、次の講義があるので」
教科書を持って立ち上がる。

「終わるまで待ってるよ」
どういうつもりよ。

「あなたの周りにいつもいる綺麗なお姉様たちと帰られたらいかがですか?」
あぁ本気でめんどくさい。

「知ってるんだ」
何か思ってた人と全然違い過ぎて、これ以上関わりたくない。

「では、失礼します」
私は真面目に大学生活を送るんだから。
振り返りもせずに、さっさと歩き出した。

「ははっ! なんか新鮮だな。あんなに嫌悪感丸出しな新入生なんて今迄一人もいなかったのにな」

なんて独り言を呟いていた事は全く知らなかった。


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