涙の涸れる日
 ギャルソンが籠に乗せたワインを持って二人のグラスに注いでくれる。籠をテーブルに置いて
「素敵な夜をお過ごしください。失礼します」

「ありがとう」

「紗耶、誕生日おめでとう」
「佑真も誕生日おめでとう」
二人でワイングラスを持って乾杯した。
 
 オニオンスープとパンが運ばれて来た。

「オニオンスープって好きなんだよな」

「でも、これを作るのは大変そう……」

「またここに来れば良いだろう?」
佑真はそう言って笑った。

「ありがとう。また来たいね」

 アボカドと海老のカクテルソースも美味しくて、ステーキとフォアグラが絶品で最高の気分で食事が出来た。

 デザートとコーヒーが運ばれて来る。
 
 コーヒーを飲みながら
「紗耶、両方食べて良いよ」

「えっ? 良いの?」

「どっちも食べたいって顔に書いてある」

「ありがとう」
 フォンダンショコラはチョコレートが濃厚で蕩けそうだった。

「はい。お皿を替えて」
 私の前にタルトタタンを置いて空になったお皿を佑真は自分の前に置いた。

「私だけ贅沢してるみたい」

「誕生日だろ?」

「佑真だって誕生日でしょう?」

「俺は紗耶よりたくさんワインを飲んだよ」

「あっ、そうだ。帰ったらプレゼントがあるの」

「俺もあるよ」

「本当に?」

「じゃあ、そろそろ帰るか?」

「タルトタタンもリンゴたっぷりで美味しかった」

「満足した?」

「うん。凄く満足した。ありがとう」

 佑真が支払いをカードで済ませて
「ごちそうさま」
「とても美味しかったです」


「ありがとうございました」

 ビストロを最高に幸せな気分で後にした。


 プレゼントは佑真にネクタイを……。
「毎日使う物だから嬉しいよ。ありがとう」

 佑真はピンクの薔薇の香料だけで作った香水をプレゼントしてくれた。
「家のまだ発売してない新商品なんだ。かなりの価格で発売される。まあ社割だけど」

「ううん。嬉しい」

「優しい華やかさのある香りだから紗耶に似合うと思う」

「早く使いたいな」


< 54 / 152 >

この作品をシェア

pagetop