涙の涸れる日
「仕事は忙しいの?」

「まあ、ペットの犬猫がメインではあるけれど近くに牧場があって、時々牛も診るよ」

「牛?」

「お産とかあると夜中でも行くんだよ。健康な良い牛を育てている牧場だからね」

「へぇ、大変なんだな」

「仕事は何でも大変だろ?」

「まあね」

「病気やケガしてる犬や猫も預かってるし二十四時間勤務みたいなもんだな」

「本当に大変なんですね」

「まぁ、好きでやってるから気にならないけどな」

「お義母さんが帰省しないって……」

「まぁ、無理だな。今も猫のビビちゃんとナナちゃんが入院中だからな」

「病気なんですか?」

「いや。骨折してね」

「可哀想……」

「紗耶ちゃんは優しいね」

「いえ。そんなこと……」

「院長夫妻には子供がいなくてね。五十代になるのかな。ここはいずれ俺に継いで欲しいって言われてるんだ」

「そうなのか……」

「あぁ。それもありかなって思ってるよ」

「親父とお袋には?」

「まだ言ってないよ。まぁその内な」

「そっか……」

「陽子さんの実家は大きな農場をしててね。弟さん夫婦が跡継ぎで、ご両親もまだまだ現役で頑張ってるよ」

「えっ? 七十代? ですよね?」

「そうだね。でもとてもお元気だよ」

「農場……大変ですよね?」

「まぁ、楽な仕事じゃないよね。自然が相手だから」

「久しぶりに兄貴と話をした気がするな」

「そうだな」

 
 それから、晩ごはん食べて行ってと陽子さんが言ってくださったけれど……。

 次の宿泊先で夕食も予約してあるからと丁重にお断りさせてもらって……。

 翔真さんと別れた。

「元気でな」

「お前も」


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