涙の涸れる日
 浮気してるってこと……。
 いつから……。
 どうして……。

 冬でもないのに体が震える……。
 頭がガンガンする……。

 ここに居たくない……。

 私は兄の名前をタップしていた。

「紗耶? どうした? こんな時間に」

「お兄ちゃん……助けて……」

「分かった。すぐ行く」

 兄は独身で、このマンションから車で二十分もあれば行けるタワーマンションに一人で住んでいる。

 間もなく玄関の鍵の開く音。

     *

 リビングのソファーにただボーッと座っている紗耶。様子がおかしい。

「どうした? 紗耶?」

「……お兄ちゃん」

「具合でも悪いのか?」

「ううん。大丈夫……」

「大丈夫じゃないだろ。病院へ行くか?」

「体は大丈夫。でも……ここに居たくない」
 紗耶はそう言った。

「佑真くんは?」

「彼は……」
そう言うなり涙を流し始めた紗耶。

「分かった。支度しろ。俺のマンションに行くぞ」

「うん……」

「バッグは?」

「持って来る……」
そう言うと紗耶は涙を手で拭いながらフラフラした足取りでバッグを取りに行く。


 綺麗に片付けられた部屋。
 ダイニングテーブルには二人分の食事が並んで手も付けていない。

「何があったんだ……」
何かの時の為に合鍵を持っていて良かった。
ここは家の会社の物件だからな。

 とにかく紗耶を車に乗せて俺のマンションに連れて行った。


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