涙の涸れる日
「紗耶。食事は取ったか?」

「ううん。でも食欲ないから……」

「そうか。紅茶でも入れるか? そうだ。オレンジ・ペコがあるよ。紗耶、好きだろ?」

「うん。じゃあもらおうかな」

「そこ座って待ってろ。とびきり美味いの入れてやるよ」
兄は笑顔でキッチンへ。

 私が結婚して家を出てから、兄もこのマンションで一人暮らしを始めた。

 相変わらずシンプルな部屋だなぁ。ゴチャゴチャ余計な物は置かない主義だっけ。
 
「入ったぞ」

「うん。ありがとう」
オレンジ・ペコ飲むの久しぶりだなぁ。
「美味しい。あったまる」
兄が心配そうに見てる目が気になるけど。

     *

「風呂は? 入ったか?」

「さっき入ったよ」

「何があったか聞いても良いか?」

「ごめん。まだ私自身が混乱してるから……」

「分かった。落ち着いてからで良いよ。もう寝るか?」

「寝られるかな……」
紗耶は何とも形容し難い顔で答えた。

「よし。きょうは久しぶりに一緒に寝るぞ」

「えーっ? 客間のソファーベッドで良いよ」
そんな嫌そうな顔するなよ。大事な大事なたった一人の妹だぞ。

「家のベッドはキングサイズだぞ。二人で寝ても、問題ないよ」
それより心配で一人に出来ない兄心を分かれっての。
「はい。こっち」
むりやり寝室に連れて行った。
「えっと、パジャマ……」
女性用のパジャマなんてないよな。

「いいよ。これカットソーのワンピだから。このまま寝るよ」

「そっか。じゃあおやすみ。俺、風呂入ってくるわ」

「うん」

「灯りは……」

「ごめん。点けといて」

「分かったよ」

 ドアを閉めた。さぁ、どうしたもんか。
明日になれば話してくれるだろうか?


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