涙の涸れる日
佑真

後悔

 佑真は切られたスマホを呆然と見ていた。
 ここに居たくないって事は俺と居たくないって事か?

 何で? いや心当たりはあると言えばある。
けど、由布子の事は知られる筈がない。
 
 

 俺は化粧品会社の営業部にいる。化粧品店やデパートの化粧品売場に行くのは仕事だ。
 当たり前だけど、そこには女性が多く居る。

 大手デパートの化粧品売場の主任をしていた田所由布子と出会ったのは四年前。勿論仕事でだ。営業で足を運ぶ以外に接点はない。

 昨年冬の新商品の売上が好調で由布子の勤めるデパートが記録的な売上を叩き出した。

 その慰労を兼ねての忘年会が年末に開かれ俺も是非にと誘われた。

 顔だけ出して帰るつもりだった。
 
 話していると由布子が俺と同じ大学の二年先輩だと分かって話も弾んだ。知ってる教授の話やら、大学内のカフェのメニューの話で盛り上がって酒も進んだ。

 結局最後まで付き合わされた。

 お開きになり、それぞれタクシーに乗り合わせて帰る事になった。

 偶々というか由布子のアパートが他の人達と反対方向だった為、俺が少し遠回りをして送り届けて帰宅するつもりだった。

 由布子はかなり酔っていて部屋まで送った。鍵が見付からないと言うからバッグの中から探し当てて鍵を開けた。

 勿論そのまま帰るつもりだった。

 玄関に入れて
「じゃあ帰ります」
すると酔った由布子が抱きついて来た。

「お願い。キスして」

「なにバカな事を言ってるんですか」

「大学の頃、あなたが好きだったの。でも私年上だし諦めてた」

「田所主任、冗談は止めてください」
 由布子の体を引き剥がそうとしたが離れてくれない。相手は女性だ。突き飛ばす訳にもいかない。俺は焦った。

 由布子は絡みつくような濃厚なキスをした後、潤んだ瞳で俺を見詰めて縋り付くように言った。
「今夜だけ、一度だけで良い、抱いて。私に思い出をちょうだい」


 酔っていたのは言い訳にもならない。
 そのまま由布子と俺は男女の関係になってしまった。


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