涙の涸れる日
「高梨さんが好きなの。どうしても忘れられないの」

 そんな事を言われても何も感じない。
 ただ腹立たしい。

「一度だけだと言っただろ。忘れたのか?」

「そのつもりだった。でも……。あの日、抱いてもらって凄く幸せだったの」

「酔っていたとはいえ申し訳ない事をしたと思ってる。すまなかった」

「止めて。私は嬉しかったの。学生時代に憧れていた高梨さんと男と女の関係になれて……」

「…………」

「お願い。私と付き合ってください」

「俺は結婚してるんだ。そんな事は出来ない」

「知ってます。可愛い奥さんが居る事も……。時々会ってくれれば良いから」

「田所主任。自分が言っている事の意味が分かってるのか?」

「最低な事を言ってるのは自分でも分かってるの。でも、どうしようもないの。それでも高梨さんが欲しいの」
熱っぽい眼差しを向けて言う。

「田所主任。あなたの言う事は、とても受け入れられない。帰らせてもらう」

「じゃあ、きょうだけ。今だけで良い」

「はあ?」

「この京都で、もう一度だけで良いから……。抱いてください……」

「…………」

「お願い……」

 ため息しか出ない。こんな女の為に時間を割くなんて……。

「だったら脱げよ」
感情の込もらない声で吐き捨てる。

「えっ…………?」
一瞬怯えた表情を見せた……。

「俺に抱かれたいんだろ?」

 この言葉で思っていた人と違うと怒って帰ってくれる事を期待した。
 が、この女には通用しなかった。

 ベッドの前に立ち脱ぎ始める。
 その様子を見ても何も感じない。ただ面倒な事に巻き込まれたとしか思えない。
 

 結局……。怒りに任せて彼女を抱いた……。最低だ。

 ベッドの中で
「由布子って呼んで……佑真……」

 こんな時間から明るい部屋でカーテンすら閉めないで欲だけをぶつけ合うような行為……。


 愛しい紗耶とは違う……。
 紗耶の綺麗な体とはまるで違う……。


 お世辞にも美人とは言えない、メイクだけで作り上げた顔……。

 だが……。豊満な熟れた体と貪欲な迄に俺を欲しがる由布子に溺れていくのを否定は出来なかった……。


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