涙の涸れる日
兄 凌太

デパート

 紗耶を俺のマンションに連れて来た翌朝。
 
 多分ほとんど寝られなかったのだろう。
 昨夜は声を殺して泣いているのが分かった……。
 今はそっと寝かせておこう。

 俺はスーツに着替えて出社した。急ぎの仕事だけを午前中に片付けて昼には退社する。

 何も持たずに来た紗耶の着替えを買いに行く。
 紗耶が学生の頃からの行き付けのショップは分かる。そこで顔なじみの店長に家用の楽な物と出掛けられるワンピースなどを数点。
 下着も紗耶のお気に入りのブランドの物を店長に任せて選んでもらう。今も紗耶はここに来るようでサイズも分かると言ってくれて助かった。

 後は化粧品か……。
 結婚してから多分あいつの会社の物を使っているだろうが、今は目にも入れたくない。

 結婚前に使っていた化粧品メーカーが思い出せずデパートに向かう。
 確かフランスのメーカーだと思ったがと探していると

「ねぇ、主任が高梨さんと付き合ってるって言いふらしてるの知ってる?」

「聞いたけど有り得なくない? 可愛い奥さん居るんでしょう?」

「いくら焦ってたって人の物に手を出すなんて最低」

「忘年会の時だって私達と方向同じなのに自分だけ違うって高梨さん独り占めして」

「あんなアザトイ年増相手にされる訳ないじゃない」

「仕事仕事。遅れちゃう」

 昼休憩が終わったのか、その二人はあいつの化粧品会社のコーナーに入って行った。


 間違いなく高梨とは紗耶の夫の佑真のことだろう。

 見るとあいつのメーカーの隣に、紗耶が気に入って使っていたフランスのメーカーがあった。
 そこで化粧水、美容液、ファンデーション、口紅を美容部員お勧めの物を購入した。

 それから紗耶の好きなサンドイッチとデザートを買ってマンションに帰り、駐車場に車を停めて、ある男に電話を掛けた。


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