涙の涸れる日

悪い夢なら

 目が覚めた……。ここは? 

 そうだ。お兄ちゃんのマンションに来てたんだ。

 昨夜はなかなか眠れなくて、嫌な事ばかり考えて……。

 訳が分からなくて……。

 悪い夢なら良かったのに……。



 でも、あれはやっぱり現実で……。

 何で? どうして? 

 誰か嘘だって言ってくれないかななんて……。



 イタリアンで食事したの三日前だよね?

 二度目の結婚記念日……。

 あれは夢だったの?


 信じてた。疑った事すらなかった。

 あの女の人は誰?

 いつから?
 どうして?

 また涙が零れる……。


 私が泣いていた事に気が付かないような鈍感な兄じゃない……。

 お兄ちゃん、眠れたのかな?

 仕事に出掛けたのかな?



 鏡、見たくないな……。
 瞼が腫れて酷い顔をしてると思う。

 ベッドの上に座って考える。

 これからどうしよう?
 どうすれば良い?

 何からどう考えたら良いのか分からない……。

 頭の中はグチャグチャで……。

 心はもっとメチャクチャで……。


 何も無かったと思い込んでみる……。

 だけど、それは無理だと思う。

 頭痛がする……。体が重い……。

 あの二人の声が頭の中でグルグル回って……。
 目眩がする……。吐き気がする……。

 ボーッとして動きたくない……。

 そのまま動けずに、ただ座っていた。




 玄関の開く音……。

「ただいま」

「お兄ちゃん……。仕事は?」

「ちゃんと済ませて来たよ」

「でもこんな時間に帰れないでしょ?」

「優秀な副社長は仕事なんて直ぐ終わるんだ。サンドイッチ買って来たぞ。食べられるか?」

「うん。ありがとう」

「ほら、起きて来いよ」

 重い体を何とか動かしてリビングに行く。

「何これ……?」

「お前、着替えもないだろう?」

「お兄ちゃんが買って来てくれたの?」

「あぁ、紗耶の行き付けの店を知ってて良かったよ」

 たくさんのショップバッグが並んでる。
 お兄ちゃんにこんな事までさせて申し訳なくて
「ごめんね……」

「ごめんねじゃない。ありがとうで良いんだよ」

 兄の優しさに泣きそうだ。

 私の涙腺、壊れたみたいだ……。


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