涙の涸れる日
 加藤さんの事務所を出て兄の車の助手席に乗る。

「紗耶。父さん達に話しに行こう。もう隠しておける状況じゃない」

「そうだね。うん。行く」
もう気持ちは決まってる。

「分かった」



 兄が駐車場に車を入れている間に

 実家の門を開けて玄関まで石畳を歩く。

 この前来たのは、お正月だったっけ……。
 あれから半年も経ってないのに、こんな事で来ることになるなんて……。

 ドアホンを押す
「ただいま」

 玄関まで来てくれた母が
「どうしたの? 紗耶」

「うん。上がっても良い?」

「何言ってるの。紗耶の家でしょう? どうしたの? 急に……」

「うん。話しておきたい事があるから」

「そう」
 
 その時、兄が入って来た。

「凌太まで、どうしたの?」

「あぁ、親父は?」

「書斎に居ると思うけど……」

「ちょっと行ってくる」
私を見る兄の目が大丈夫だよと言っているようだ。

「紗耶、紅茶でも入れようか」

「ううん。お母さん、話があるの」

「何?」

「私ね。佑真と離婚しようと思ってる」

「えっ? どうしたの急に……。何かあったの?」

「佑真に女の人が居るの……」

「えっ? 佑真さん、浮気してるって事?」

「うん」

「紗耶の思い過ごしじゃないの?」

「ううん。証拠は私がこの耳でハッキリ聞いたから……」

「何て事なの。あの佑真さんが……」

「お母さん。ごめん。もうその名前も聞きたくないの」

「紗耶。辛かったね。何にも知らなくて……ごめんね」
母は涙ぐんでいる……。

「お母さん……。心配掛けて、ごめん」

「何を言ってるの。紗耶、あなた今どこに居るの?」

「お兄ちゃんのマンションにおいてもらってる」

「そう。凌太が……」

「うん。何から何まで、お兄ちゃんが色々してくれたの」

「そう。紗耶、もうやり直すつもりもないのね?」

「うん。ないわ」

「それならここに帰っていらっしゃい」

「良いの? 私、バツイチの出戻りになるんだよ」

「あなたも随分古い事を知ってるのね。今時バツイチなんて気にする事ないわよ。紗耶が幸せならそれで充分なの」

「お母さん……ありがとう……」
親ってありがたい存在なんだ。


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