涙の涸れる日
動き出す

料亭五十鈴

 その翌日。
 
 都心だとは思えない程、木々に囲まれた閑静な佇まい。料亭五十鈴の個室で、紗耶の父本多俊輔は大学時代の旧友の日下部博行と会っていた。

 日下部は佑真の勤務する化粧品会社の代表取締役社長。

 大学時代に同じラグビー部で汗を流した仲間だ。今でも時々会って酒を酌み交わし近況を話す。

「そういえば涼子さんは元気か?」

「あぁ。元気にしてるよ」

「大学時代、お前と涼子さんを取り合った仲だからな」

「また、その話か」
俊輔は苦笑する。

「綺麗だったな、涼子さん。まあ一途に思っていた俊輔に取られたけどな」

「お前は遊び過ぎなんだよ」

「それは否定はしないが……」

「自覚はあるんだな?」

「結婚してからは遊びは止めたぞ」

「当たり前だ」

「紗耶ちゃんだっけ? 小さな頃に会ったな。可愛い子だった。涼子さんに似て美人になっただろう」

「若い頃の涼子に少し似てるかな」

「お前が羨ましいよ。立派な息子に可愛い娘。俺も一人くらい欲しかったな」

「お前の事だ。愛人の一人や二人囲って外に子供を作るかと思ってたよ」

「いや。それは考えなかったな。加奈子を泣かせてまで跡取りを作る気はないよ」

「加奈子さんを大事にしてるんだな」

「会社もあれだけ大きくなれば世襲である必要はない。俺は三代目だ。次に渡すのは背負って潰れないだけの器を持った他人が良い」

「そうか。そこまで考えているとはな」

「おいおい。ただのボンクラ三代目じゃないつもりだ」

「分かってるよ。まあ家くらいの会社が息子に渡すには丁度良いって事だな」

「いや。優秀だと聞いてるぞ。凌太君だったかな?」

「あぁ。良くやってくれてると思う」

「会社を継いでくれる息子と可愛い娘か。お前は幸せな奴だな」

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