涙の涸れる日
「実はその娘の事なんだが……」

「どうした?」

「高梨佑真。お前の会社の営業部で働いてるんだが。紗耶の婿だ」

「そうだったのか? なぜ言わなかった?」

「会社関係の知らない人ばかりが集まる披露宴はしたくないと娘が言うから派手にはしなかったんだ。まあ今となっては正解だったがな……」

「どういう意味だ?」

「婿に女がいる……」

「高梨佑真にか?」

「あぁ、そうだ」

「仕事はかなり出来る。今も請われて大きなプロジェクトを任せているのだが……」

「そうなのか……」

「相手は分かっているのか?」

「〇〇デパートの田所由布子という主任だそうだ」

「家の会社の売場主任という事か?」

「そうだ」

「社内不倫という事か……」

「まぁ、そうなる」

「高梨君には期待していたんだ。今のプロジェクトが成功したら課長にと思っていたんだが……。不倫はまずいな。考え直すか……」

「娘は離婚すると決めているようだ」

「結婚してどれくらいになるんだ?」

「先月で二年経ったばかりだ……」

「そうか……。たった二年で女を作るとはな……。分かった。俺に任せてくれないか?」

「お前の会社の社員の事だからな。俺に口出しする権利はないよ」

「紗耶ちゃんに悪いようにはしない」

「ありがとう」

「惜しい人材ではあるが……。どこからどう噂が広がるか分からんからな」

「女性が顧客の化粧品会社だ。イメージを損ねる事態は避けるべきではあるな」

「よく話してくれた。感謝するよ」

「それは俺の方だ」

「きょうは飲んでも酔えそうにないな」

「俺もそうだ。娘の気持ちを考えるとな……」


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