脆姫は過去に生きる
「姫様のお母さまもお体は丈夫ではなく、姫様を出産することは命がけでした。」
知らなかった。

「姫様が2歳の頃亡くなられたお母さまのお気持ちを継いで私は姫様の隣にずっといます。時々ご無礼な態度とわかっていても、厳しくさせていただくこともありました。」
富さんの瞳から涙が今にも溢れそうになる。
その涙につられて私の瞳からも涙が溢れる。

自分のことなのに、自分の事ではない不思議な感覚と、富さんの温かな気持ちに触れて、こらえきれない感情が涙になりあふれ出す。

「亡くなられたお母さまのお気持ちも継いで、姫様が無事に健康なお子様を出産されるよう、全力でお守りいたします。姫様、気をしっかりと持ち、毎日を慎重に過ごしましょうね。」
富さんは笑わない。穏やかに微笑みに近い表情をしても、笑顔は見たことがない。

そんな富さんがきれいな涙を流しながら、笑顔を向けてくれるから、私は余計に涙があふれ出した。
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