脆姫は過去に生きる
「紅姫をよろしくたのむぞ。」
「もちろんでございます」
鉄王は湯殿の入り口で私を富さんに託すと公務室へと戻っていった。

王の背中を見送ってから富さんが私の手をとる。
「転ばれては大変ですから」
「ありがとう」
ふとため息をつくと富さんは私の方を見た。

「最近、同じような表情が多いですね。ご不安ですか?」
「・・・私はできるかしら。」
「え?」
「母親になれるかしら。この子を…この手で抱くことはできるかしら。」
私の言葉に富さんが足を止めて私を見た。

「私には姫様の体のことはよくわかりません。でも、全力を尽くして姫様とお腹の中のお子様をお守りいたします。やがてこの国を支える重要な人物になるからではありません。姫様の子だからこそ、富は全力でお守りしたいと思うのです。」
富さんの力強い言葉に私は張り詰めていた気持ちが少し和らぎ、前に再び進みだすことができた。
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