脆姫は過去に生きる
見たこともないような部屋。
見たことのないような服。

鉄平の雰囲気も話し方も違う。
第一、私を鉄平が知らない。

それでもいい。
他に何もいらない。

ここにこうしていられれば、もう何もいらない。


「よほど池に落ちたことが怖かったのだろう。大丈夫。もう大丈夫だ。何度だって私が助ける。咲。」
「・・・?」
名前の呼び方に顔を上げる。
「今、なんて?」
「涙でぐちゃぐちゃじゃないか。瞳が腫れるぞ?」
私の顔を見た鉄平が私の瞳に触れながら言う「咲」と。
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