脆姫は過去に生きる
建物を頑丈に作るための知識は私にはない。

「傷ついた民を支えてくれているだろう。」
「私は話を聞くだけです。」
いつの日だったか、人の話を聞き、共感するだけで心が落ち着くことがあると聞いたことがある。
私はこの災害で家族を失った人、けがをしてそれまでの生活を手放すことになった人の話を聞けるように、御影さんにお願いして場所を設けてもらった。
最近は出産が近づき、機会を作れていないが、出産したら再開するつもりだ。

「この子は、民に希望を与えるためにここに来てくれたのかもしれないな。」
鉄王がそう言って私を後ろから抱きしめて、お腹に手をまわした。

「今日は動いてるか?」
「今は寝ています。さっきまで元気に動いていましたが。」
「不思議だな。ここに新しい命がある。私もこの子の鼓動を触れれば感じることができる。この国の復興をあきらめずにできるのも、この子が生まれる世界を安全にしたいと願うからだ。」
鉄王は毎晩お腹の子に向かって話しかけてくれる。
この時代の男性にしては珍しいと、誰もに言われた。
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