脆姫は過去に生きる
真っ暗な部屋の中。

鉄平のぬくもりに包まれて眠る夜。

「眠れないか?」
「・・眠るのがもったいなくて・・・」
「ははっ、そうか。なら私も同じだ。」
「鉄は眠って。明日から・・・」
「大丈夫。すぐに戻る。大丈夫だ。」
心の中で鉄平と名前を呼ぶ。

もしも鉄平と見た目が違っていたら、私は今、私を抱きしめるこの王にどんな感情を抱いただろうか。

「咲」
「ん?」
「私の人生で咲に出会えたことは何よりも尊いことだな。」
「また、泣いちゃうからそういうこと言わないで。」
こんなことを王たる人に言ってもいいのかと思う。でも、鉄平は全く気にせず話を続ける。
< 56 / 251 >

この作品をシェア

pagetop