脆姫は過去に生きる
「起こしてくれてもいいぞ?そろそろ」
目を閉じたまま話す鉄平。
「起きてたの?」
「ついさっきな。久しぶりに熟睡していた。」
「少しはお体、休められましたか?」
「あぁ。休めた。」
目を開けた鉄平は穏やかな顔をしている。

「帰ってきたことを実感するな、咲といると。」
「私も、王の寝顔を見て実感していました。」
私の言葉に、鉄平が眉をひそめてじっと私を見つめる。

「その言葉遣いや私の呼び方はどうした?違和感しか感じない。」
「私もいろいろと勉強をしたんです。それで王に対しての態度も改めなくてはならないと思って。」
「やめてくれ。二人の時間は特に安らぎが減る。昔のままでいてほしいと、私が王になった時に約束したではないか。思い出の場所で。」
「思い出の場所?」
「忘れてしまったか?思い出の見晴らし台で、そう約束したではないか。」
残念ながら私には全く記憶がない。
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