恋に焦がれて鳴く蝉よりも
 「…で?」

 蛍里は、探るような眼差しで自分を見つめる
結子に、語尾を反芻した。

 「彼の気持ちに答えたの?好きとか、
嫌いとか」

 「……いえ。まだそういうことは、何も」

 果たして、蛍里の態度を彼がどう受け取って
いるのか……想像すればまた、胸は苦しくなる
けれど。

 結子に話したことで、幾分、気持ちは楽に
なった。

 「そういうことなら、折原さんが上の空に
なってもしょうがないわね。でも、迷える子羊
さんにわたしから伝えなきゃいけないことが、
ひとつ」

 「な、何ですか???」

 身を乗り出しながら、人差し指を立てながら
そう言った結子に、蛍里は思わずごくりと唾を
呑んで、その先の言葉に耳を傾けた。

 「あと10分でお昼休み終わっちゃう」

 「!!!!」

 店の時計に目をやってそう言った結子に、
蛍里は思わず悲鳴を上げそうになった。

 たっぷりタバスコをかけてしまったピザは、
まだ、一切れも食べていない。

 結子のパスタは、いつの間に食べたのかすで
に空っぽで、あとはサラダとコーヒーが半分
ずつ残っているだけだ。

 蛍里はあわあわしながら、罰ゲームと化した
ピザを手に取った。そのピザに結子も手を伸ば
す。

 「もう、しょうがないな。二切れだけ手伝っ
てあげる。5分で食べて、5分で走って戻りま
しょ」

 目を丸くして結子を見た蛍里に、結子は躊躇い
もなく、激辛ピザにかぶりついた。

 そうして、「辛ッ!!」と、顔をしわくちゃ
にした。

 「すみません、五十嵐さん」

 蛍里は彼女のその顔に吹き出しそうになり
つつ、お詫びを言いつつ、自分も果敢にピザに
かぶりついた。

 強烈な辛みと共に、痛みまで口の中に広がる。

 蛍里は涙目になりながら必死にピザを口に
押し込み、残り2枚のところで、ギブアップ
したのだった。






 その夜。
 半ば、諦め気味でメールの受信BOXを覗いた
蛍里は、たくさんの広告メールの隙間に彼の
名前を見つけ、全身の肌が粟立った。



-----件名、お返事遅くなりすみません。



 間違いない。
 詩乃守人からだ。

 蛍里は、思わず席を立ってデスクを離れると、
両手で頬を挟んで遠巻きにパソコンを眺めた。

 どうしよう?彼が返事をくれたことは、
とても嬉しい。

 けれど同時に、同じくらいメールを読むのも
怖い。いったい、どんな事が書いてあるのか。

 蛍里は、一度深呼吸をしてデスクに腰掛け
ると、2週間ぶりに届いた彼からのメールを、
クリックした。

 そして、どきどきしながら活字に目を走ら
せた。
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