余りもの王女は獣人の国で溺愛される
『マジェリカ様、少しでも楽なように準備をしたから。それでも無理な時は言ってください。休憩しますから』
アイスブルーの瞳の竜と視線を合わせると頭の中に声がした。
その声は、宴や昨夜の食事会で話したリヒャルト様の声。
でも、目の前の竜は口なんて開いていない。
不思議に思いつつも脳内に聞こえた言葉に返事をした。
「承知しました、リヒャルト様?」
つい疑問形で返せば、目の前のアイスブルーの瞳が穏やかに細められた。
『びっくりしたかな? 竜の喉では人語は操れないから。いま届けているのは念話だよ』
声の調子は少し楽しそうに弾んでいる。
大きな瞳と顔だけれど、不思議と怖いとは感じない。
その瞳にしっかりと知性を感じるからだと思うし、とにかくリヒャルト様が私を見る時の瞳は優しくて、なんだか甘く見えるのだ。
それは人型でも竜体でも変わらない。
『私がマジェリカ様を落とすことは決してない。だから、初めての旅を、空を楽しんでくれたら嬉しい』
私は、またドキドキとする鼓動を抱えて返事をした。
「お気遣い頂きありがとうございます。初めてのことにドキドキしていますが、楽しみです」
そんな会話を交わしているうちに、出発のための準備は整ったようだ。
見送りに並ぶ面々に、アルジーノお兄様と一緒に並び挨拶をする。
「それでは、父上行ってまいります。ギャレリア王国とマジェリカの婚礼を見届けて帰国致します」
そんな兄の言葉にお父様は頷き答えた。
「あぁ、頼んだぞアルジーノ」
そしてお兄様が一歩下がり私をお父様の前に出した。
「お父様、お母様方。今までお世話になりました。ギャレリア王国でも、私に出来ることをして番様に寄り添ってまいります」
そんな私の言葉にお父様は少し詰まったが、一言くれた。
「お前は、真面目で自分の立場をよく理解した子だった。わがままも言わぬそなたを、誇らしくも少し寂しく思ったこともある。かの国で、どうか息災でな」
そんなお父様の言葉に私は頭を下げた後に、リヒャルト様のとなりの籠に乗り込んだ。
そうして、私はリヒャルト様の持つ籠に乗ってギャレリア王国へと旅立った。