余りもの王女は獣人の国で溺愛される
ちなみに生まれた卵は大きさにして私の顔くらいのサイズ。
こんなサイズが体から出てくるならそれなりの痛みがあってしかるべきと思っていたのに。
まったく体に違和感はなく、少し大きくなっていたお腹も元に戻っている。
卵に気づいてすぐ、ルトは竜体になり卵を抱えてくれた。
竜体の手でしっかり掴み、尻尾で囲って温めている。
朝になって来た二コラは、無事の出産を喜び朝の支度を済ませると大急ぎで王宮へと知らせに行きリエナは私を気遣いつつルトの竜体の大きさに少し戸惑っていた。
「マジェリカ、これからしばらくこの姿で不便をかけます。でも、この子が孵るのが楽しみで、楽しみで仕方ありません。一緒に待ってくれますか?」
そんなの、もちろん一緒に過ごすに決まっている。
温めることは出来ないけれど、この子は私とルトの子なのだから。
「もちろんです。この子が出てくるときは絶対に一緒に迎えたいですから」
こうして、次の二か月はルトの子育て期間が始まった。
私は自分のご飯を食べつつ、ルトにもご飯を食べてもらえるように口元に投げ込んだりする。
竜体の時はやはり、ワイルドに肉がおいしいのだとか。
人型であれば、野菜なども欲しくなるけれど竜体だともっぱらお肉なのだと教えてくれたのはリーヤ義姉上だった。
リーヤ義姉上もリンを生んだときは陛下と交代で温めるためほぼ竜体で過ごし、夫婦でお肉ばかり食べていたという。
竜体なので交代で狩りに出て、獲物をとってきていたとか。
今回練習だとしてリーヤ義姉上とリンが狩りに行ってくれて、新鮮なお肉がルトに届けられている。
それは三日に一回くらいの頻度で、温めて動かない間はそれくらいの食事間隔で問題ないらしい。
「ルト様、ご不便はありませんか? まったく代わることが出来なくて……」
二十四時間、二か月ずっと温め続ける役になるルトに私は少し申し訳なくなる。
妊娠期間も短くて、出産の負担もほとんどなく、今は普段と変わりない体調で生活できているから。
自由にならないルトが心配になっていしまう。
私の言葉にルトはその瞳を輝かせると、穏やかな声音で答えてくれた。
「子を温めるのがこんなにも穏やかで幸せになれるとは思ってもみなかったので、むしろ独り占めで申し訳ないくらいだよ。だからそんなにリカが気に病むことはないよ」