余りもの王女は獣人の国で溺愛される
そんなルトの返事を聞くと、今度は少し羨ましくなった。
私の様子の変化に敏いルトは、私を自身のそばへと招く。
「リカ、こっちへおいで」
ルトの手元に招かれて、私は四日ぶりに私の子のそばに行く。
「ほら、父だけだと少し飽きただろう? お母さまが来たよ?」
そんな風にルトが声をかけると、卵の我が子は声を聴いたからか卵が揺れた。
少し心配になりつつも、卵のそばに行きそっと触れる。
「お母さまですよ。 ごめんね、お母さまは人だから温めることが出来なくて。元気に出てくるまで、お父さまに温めてもらってね? お母さまもすぐそばで待っていますよ」
触れた卵は温かく、そして私の声に反応して先ほどより大きく揺れる。
しっかりとした反応に、確かに自分の声が届いていると感じて嬉しくなる。
「しっかりお母さまの声が聞こえているんだね。 嬉しいね。リカ、いっぱい話しかけようね」
本当に聞こえているのがわかると、嬉しくて私は毎日絵本を読んで聞かせたし、な家族の時間を穏やかに過ごしていた。
そうしてもうすぐ孵るだろうと思っていた二か月に差し掛かる頃。
事件が起きる。
どうやったのか、ルトがしっかり掴んでいたはずの卵が連れ去られてしまい、離宮は大騒動になる。
「リカ、すまない。俺が、少しうたた寝したばかりに……」
ルトは自分の不手際で我が子がいなくなったことに、焦りと申し訳なさで謝ってばかりだ。
「ルト、あの子はルトから離れてどれくらい持つのでしょう? 早く探さなくては……」
しかし、ここは離宮で子育て真っ最中なのだ。
警備もしっかりいるし私たちの部屋の前にも騎士がいる。
こんな部屋に入れるのはおかしい。
だから、悲しいけれどこの犯人は私たちに馴染みある人物なのである……。
そうして卵が消えたことに気づいて二分で、部屋の前待機の護衛騎士から報告がある。
「五分ほど前に、サーシャ殿が明日の準備にと入って出ていかれました」
そう、この部屋に入っても警戒されない人物。
私の侍女のサーシャが濃厚になり、騎士も動けるものもみな動き出そうとしたとき、私たちの部屋のバルコニーから可愛い鳴き声がした。
「きゅい。きゅ、きゅい」