余りもの王女は獣人の国で溺愛される
ルトが大慌てでバルコニーのドアを開けると、飛び込んできたのは可愛らしいリンより小さな水色の鱗の小竜だった。
「きゅ、きゅいきゅい」
そんな声と共に、小さな翼で私の胸にまっすぐ飛んできた小竜。
「アクアリーテ?」
卵のうちにエイゲルスが診た結果、この子は女の子だと聞いていた。
卵のうちから、声をかけるのに名前が欲しいと私とルトで付けた。
卵だったけれど、名前を呼ぶと喜んで揺れていた。
その名前を呼ぶと小竜は嬉しそうにぐるぐると喉を鳴らして、私の胸に頭を擦っている。
「良かった! アクアリーテ、無事だったのね。心配していたのですよ」
私の声に、アクアリーテはくるんと瞳を瞬かせると次に声が響いてきた。
「大丈夫よ、おかあさま。アリーは悪意に気づいて、ちゃんと孵化して自力で逃げられるもの」
アクアリーテは可愛らしい声で、そんなことを言った。
「あなたをここから連れ出したのは、サーシャよね?」
大切なことなので、確認をとった。
するとアクアリーテは頷いた。
「どうも、獣人の密漁団に目をつけられたみたい。サーシャはごめんなさいって言いながら、私を連れ出したよ」
獣人の密漁は、ギャレリアにとっての一番の問題だった。
子どもや、卵のうちに攫われるという事件が数年おきに発生する。
まさか、王宮内部で事件が起きるとは考えてもいなかったが、竜人族は長命ゆえになかなか子ができない。
そこにできた竜人の子。
祝い事で国では王弟に子ができたのは公表されている。
そこを密漁団は狙ったのだろう。
でも、サーシャはそんな連中とどうやって知り合ったのか……。
それもすべてはサーシャが連行されて明らかになる。
密漁団は、事前に子ができたことを知るとマテリカに赴き、そして慎重に調べたサーシャの家族を人質に取り、王弟の子を攫うよう指示したらしい。
親兄弟をとられたサーシャには、どうしようもなかった。
マテリカならまだしも、ギャレリアでは騎士にも伝手のないサーシャはそれでも連れ去れないと抵抗した。
すると、下の妹が売られそうになりそれだけはと、とうとう犯行に及んだという。