余りもの王女は獣人の国で溺愛される
しかし、そこは竜人族ということなのだろうか。
アリーが自身で飛ぶことは許されなかったものの、私と一緒の籠でのマテリカへの移動の許可が下りた。
「大丈夫なんですか?アリーはまだ生まれたばかりなのに」
思わず口をついて出た私の言葉に、ルトとアリーはきょとんとしている。
「おかあさま、私はいま何歳くらいに見える?」
人型になったアリーはまだ生まれて二か月になったばかりなのに、その歩く姿も話し方も赤子ではなく幼児。
年代的には三歳ほどに見える。
この人型になってからは、ミルクではなく離乳食を二日ほど経た後は幼児食になっている。
すでにほとんど大人と変わらないものを食べているのだ。
「三歳くらいじゃないかしら?」
私の返事にルトとアリーはにこっと笑って言った。
「そう、もうアリーは人族の感覚では三歳児くらいなんだ。籠でなら、マテリカまでの移動もそこまで負担ではないよ」
「アリーも、おかあさまの国見てみたいし、一緒に行くの。おかあさまとおとうさまと離れるの嫌」
アリー本人の親と離れたくないという主張もあり、この度の街道完成式典に外交官であるルトに付いて私とアリーの訪問も決定したのだった。
そうとなると、私の侍女たちはアリーと私のマテリカ訪問の準備で一気に忙しくなる。
ドレスに礼装に小物など特にアリーは最近人型になったばかりで、そういったものが圧倒的に足りない。
二週間後に出発とのことで、離宮も国王陛下付きのお針子数人も駆り出されて離宮の一室は現在お針子たちによってある種の戦場だった。
「ここはピンクのレースではない?」
「いいえ。王弟妃殿下とお揃いにするならば琥珀だと思うのよ」
「そうね。リヒャルト様もそのほうが喜ばれるわ。レースは琥珀に」
そんな会話がなされていても、その手は止まらずに縫い続けたり、編み続けておりプロの手さばきは大変なスピード感であった。
「皆さん、本当にありがとう。そろそろ、疲れてくるころよ。休憩になさい」
私の趣味程度では到底力になれないので、私は彼女たちに適度に休憩を促すことを決めた。
放っておくと、休みなく動き続けてしまう仕事熱心な彼女たちはキビキビと確実に服を仕上げてくれる。