余りもの王女は獣人の国で溺愛される
 お針子の中で、リーダーが私の声掛けに気づき皆に休憩を促す。

「マジェリカ様が、休むよう皆を思ってご準備くださいました。いったん休憩しましょう」

 その声掛けでものすごい動きで仕事をしていた子たちがみんな止まる。

 そして用意したお茶とお菓子を並べて、声をかける。

「さぁ、みんなありがとう。こちらを食べて飲んで、残りもお願いしますね」

 私がいると休まらないだろうから、差し入れを準備したら部屋からは撤退だ。
 あんなに頑張ってくれる皆を労わないなんて、そんなことは出来ない。

 そうして私はいつも頑張ってくれる皆が、少しでも休めるように自室へと引き上げて待っているアリーとゆったりと午後を過ごした。

 その後は出発までの間、お針子部屋への差し入れは継続しつつも空き時間にはギャレリカの礼儀作法をアリーと一緒に学び、身に着ける時間となった。
 アリーは大変優秀で、可愛らしく礼儀作法を身に着けていく。

 この感じであれば、父や母たち、兄たちに会っても問題ないだろう。
 ただ、生んだばかりと聞いていた子が三歳児で現れたらかなり驚くと思うけれど。
 マテリカの家族たちがギャレリアの竜人族について学んでくれているといいのだけれど……。

 そんな私の心配はありつつも、着実に準備も時間も進みマテリカへ行く三日前となった時。

 驚きの変更が告げられた。
 宰相を残し、国王陛下と王妃王女も一緒にマテリカ訪問が決定したのだ。

 急な変更に朝から騎士たちはてんやわんや。

 王宮は、ものすごく慌ただしい空気になりルトは頭を抱えている。

「兄上、なぜこの数日前になって急な予定変更を……」

 外交はほぼルトの担当で陛下はめったなことでは国を開けないと聞いていたのに、急な変更での訪問に驚いている。

 使者が急な予定変更のために書簡をもって飛び立ったのは少し前のこと。

 きっと知らせを受けたマテリカ側も慌てることだろうが、三日前でまだよかったのだろうか?

 それくらいに思って気持ちを切り替えるしかないような気がする。

 この国にきて、交流するようになった陛下は、実務や謁見では切れ者である。
 しかし、そこを離れた陛下は割と思い付きで行動してしまうやんちゃな一面のある人である。

 なので、人柄がわかれば今回の発言と行動も周囲からすると、おのずと陛下だからとなるのである。

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