冴えない私の変身計画~浮気男に一泡吹かせてやろうじゃないの!!
蒼士が差し出したメニュー表には和食から洋食、イタリアンと幅広いメニューが目に飛び込んでくる。
居酒屋でイタリアン?沙菜が首を捻っていると、ふっと蒼士が笑う気配がする。
「色々なメニューがあるだろう。俺や他の常連さんの要望を聞いてたらメニュー表がこうなってしまったらしい」
なるほど。
とりあえず食事を頼む前に生ビールを頼むことにした。明日も仕事のため量は飲めないがせっかく居酒屋に来たのだ飲まない手はない。
お通しと生ビールが届いたところで乾杯をする。ジョッキがカチンと小気味よい音を鳴らし、ビールを飲みたいという欲求が膨れ上がる。
ごくんっとビールを飲むとシュワーという爽快さと苦味が口いっぱいに広がり、仕事の疲れが一気に吹き飛ぶ。
「ふわっ……おいしい」
幸せそうにそう言えば、目の前にいた部長が驚いた様子でこちらを見ていた。
「土屋はお酒が飲めたんだな?俺に付き合ってくれただけかと……」
「えっと、普段はあまり飲みませんが週末とかは家で飲んだりしますよ。沢山は飲めませんが……飲んでも缶を二本ぐらいですね」
「ビールの他にも何か飲むのか?」
「えっと……ワインや日本酒など何でも飲みますが、家で飲むときはビールが手っ取り早いかなと……ビールが多いです」
いつも家では何している?
好きな食べ物は?
以外にも部長からの質問が多く驚きつつも楽しい時間はアッという間に過ぎていった。
席を立つとタケさんが「蒼士さんありがとうございました」と声をかけてきた。沙菜が財布を鞄から取り出し会計をしようとするとタケさんが「会計済みですよ」っとチラリと蒼士に目線をやった。
いつの間に……。
今日はお礼だったのに……。
店の外に出ると、歩き出している蒼士に頭を下げた。
「部長すみません。お礼がしたいと誘ったのは私なのにお会計していただいて……」
「いいんだ。今日は待たせてしまったし、土屋のいろいろな話が聞けて楽しかった。また相談や頼みごとがあるようならいつでも言ってくれ」
頼み事……。
お酒の力を借りて言ってみてもいいかしら……。
黙り込んでいる沙菜を心配して蒼士の足が止まる。
「どうした土屋?」
沙菜は顔を伏せるとポツリと呟いた。
「蒼士さん……」
「えっ……」
「頼み事……頼み事聞いてくれるなら、蒼士さんって呼んでもいいですか?」
言ってしまってからカーーッと体が熱くなってくる。顔も真っ赤に違いない。蒼士からの返事がないことで沙菜は早口で言葉を紡いでいく。
「タケさんが部長のことを蒼士さんて呼んでいたので……図々しかったですよね。すみません」
頭を下げてから顔を上げると蒼士が口元を押さえてうろたえていた。
「いや……別にかまわない」
別にかまわないって……、良いってことだよね?
うれしい。
悲しいわけでもないのに、何でだろう……涙が出そう。
沙菜は目じりに涙を溜めた潤んだ瞳で蒼士に微笑んだ。
「じゃあ……二人きりの時は蒼士さんって呼びますね」
「うぐっ……」
沙菜の笑顔に蒼士の口から苦しそうな声が漏れ出した。