冴えない私の変身計画~浮気男に一泡吹かせてやろうじゃないの!!
お礼の食事会
夕方になりパートタイマーの人たちが帰っていくと残っているのは正社員のみとなる。一分でも早く帰ろうと正社員たちは電卓を叩きまくっていた。
そんな中、隣の席から悲痛な声が聞こえてくる。
「あーもうヤダ!!今日は彼との記念日なのに帰れる気がしない」
領収書を片手に体を机に突っ伏して動かない夏の姿が目に入る。
沙菜はそっと夏に近づくと夏の手から領収書を取った。
夏は自分の手から消えてしまった領収書に驚きつつ、消えた領収書を目で追った。
「あの……土屋さん……???」
「彼との記念日なんでしょう?あとはやっておくから帰りなさい」
「でも……いつも土屋さんに残業させちゃってるし……」
申しわけなさそうに眉を寄せる夏。
そんな夏に沙菜は微笑みかける。
「大丈夫よ。明日は茂木さんに私の分まで働いてもらうから」
そう言って領収書をひらひらさせながら沙菜が自分のデスクに戻ると、夏が手を組み女神を見つめるような瞳でこちらを見つめていたが、そのことに沙菜は気づかなかった。
それから二時間、夏から受け継いだ仕事は終わり時刻は七時三〇分になっていた。
すっかり外は暗くなり街のネオンがキラキラと輝きを増してきた頃、オフィスには沙菜と蒼士だけになっていた。
「すまない土屋またせてしまったな。行こうか」
「はい!!」
沙菜は嬉しそうに微笑んだ。
会社を出ると沙菜は蒼士の後ろをついていく。時間的にまだ人が多く行きかう姿が目に入る。すでに酔っぱらっているらしい中年の男性や、耳にヘッドホンをつけている若い男性、仕事帰りの女性など沢山の人々の往来があった。
「土屋は何が食べたい?嫌いな物とかあるか?」
沙菜を気遣う蒼士の気持ちが伝わってきて胸がザワザワとしてくる。
「あっ、私は嫌いな物とか特にはなくて……部長の好きなものでいいです」
「わかった」
そう言って連れて来てもらったのは、一軒の居酒屋だった。暖簾をくぐり中に入ると「いらっしゃい」と元気な店員の声が聞こえてくる。
中へと進んでいくと蒼士を見つけた一人の店員が嬉しそうに駆け寄って来た。
「蒼士さん!!あれ……蒼士さんが女の子連れてくるなんて初めてですね」
蒼士さん……?
「タケ、奥の席空いてるか?」
「大丈夫ですよ」
タケと呼ばれた店員が奥へと案内してくれる。その間、蒼士はタケとの話を楽しんでいた。沙菜は楽しそうに話をする蒼士に驚きながらも嬉しい気持ちになる。会社の人たちはきっとこんな部長見たことないはずだから。
頬の筋肉が緩んでしまい。ふふふっと声が漏れてしまった。
タケはメニュー表を席に置くと笑顔のまま去って行った。
すると突然蒼士がが頭を下げてくる。
「すまない。女性を連れてくるならもっと洒落た店の方が良かったか?」
部長……。
私は別にお洒落なお店なんて……望んでない。
慌てて沙菜は両手をまえでふった。
「いえ、そんなことないです。私はお洒落なお店はちょっと苦手で……どっちかというと、ここみたいな居酒屋が好きなんです」
「そうか。ここは先ほど案内した学生時代の後輩タケがやっている店なんだ。飯もうまいし酒ぬきでご飯だけ食べにくることもあるんだ」
蒼士がメニュー表を指さしながら嬉しそうに話している。目元がボサボサの長い前髪と黒縁の眼鏡で隠れているため感情が読みにくいが楽しそうだ。
沙菜はホット胸をなでおろす。
無理やり誘ってしまったけれど楽しそうでよかった。