fish
「次だって」











あの日から土日を挟んで、月曜日。






5月がもうすぐ終わる。












3日間、昼休みと放課後に分けて
面談をすると担任の先生から言われた。








最後のわたしは退屈なので、
夢中になって本を読んでいた。





だれかがそんなわたしの机を、声とともに
トントンって指でちいさく音を鳴らした。












パッと顔を上げれば、背が高くて
クールで美人な出席番号がひとつ前の北見さん。







この人は同じ中学じゃない。







だから、わたしがハーフだとか
いじめられていたのも







北見さんは、きっと知らない。







まぁでも、だからといって
特に話した事もないし
これから話す事もないと思うけど…。










わたしのせいで迷惑なんて、かけたくないし。







嫌な思いとか、するかもしれないし。












「本、平気?」






クシャってなっちゃってるけど






って声に我に返って






『あ…ありがとうございます、』







って本に栞を挟んでおいて
先生の所に行こうと立ち上がれば。







「ううん。じゃあまた明日ね」








帰り支度を済ませてあったのか
既にカバンを手に持っていた彼女は
共に教室の外を出ると、
しなやかにわたしに手を振ってくれた。







『あ…はい!ま、また明日っ』









"また明日"









なんて言ってくれるひと、滅多にいないから
たまに目が合った時だけだけどこうやって、
嫌がらせでも押し付けでもなんでもなく
話しかけてくれると、






単純なわたしは
すごくすごく嬉しくなってしまう。













『…だから、ほんとは嬉しかったんだけどな』












廊下の窓の外を覗けば
中庭で素振りをしている野球部のひとたち。









そういえばあの人の名前、
ちゃんと聞いてなかったけど、











だれかに、呼ばれてたのは、













『……"アオイ"』









苗字なのかな、名前なのかな。








字はどうやって書くのかな。














なんだか3日前から、




"アオイ"さんの事が頭から離れないの。

















______________「んー?」











すこし低い、あの人の声が
ほかの音に混じって、微かに聞こえる。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop