fish


面談が終わって教室に戻れば







わたしの席に、人影。














「あー!終わった?早かったね!」










スマホを横持ちして
わたしの席に座っていた、彼。








イヤホンを取りながら立ち上がり、
わたしに向かって笑いかけてくれる。











『え、えっと、、帰ったんじゃ』








「あー。名前聞いてないし、待っててみた!」











ここに書いてあったけどって
わたしの机の右上角にあるネームプレートを
指差してそう言った。










「紗蘭って、呼んでいい?」









そのひと言に、胸が高鳴る。













思わず、下を向いた。
















どうしよう。



































_____________すごく、嬉しい。






















「え、、、ごめん!急に迷惑だった?」







って、わたしに駆け寄って、
顔を覗き込もうとしてくる。












『ち、ちがう!』










思わず顔をあげたら、
すぐ目の前にある、顔。










綺麗な二重幅に、長いまつ毛





すこし高めの通った鼻筋





すこしだけ厚めで柔らかそうな唇




目にかかりそうな前髪




その隙間から見える整えてある眉毛




綺麗な肌




透き通る真っ黒な瞳。











吸い込まれちゃいそうだ。






教室の窓から入る夕日が



彼を照らして、より綺麗に見える。









「迷惑じゃない?無理してない?」








心配そうにわたしを見つめる。






『し、、、してない、です
その、』







「ん?」








『…うれ、しかった、ので、、』










"紗蘭"って、下の名前で






学校の人達に呼んでもらえた事なんて、







日本に来てから、なかったから。













嬉しくて嬉しくて、どうにかなっちゃいそうだ。













「…そっか!なんだ、よかったあ、、」










はーって首の後ろを掻きながら笑う。










「あ、そうだ。名前ペンある?」







『あ、、あります』








何に使うんだろって思いながら、ペンケースから
油性の名前ペンを取り出して手渡すと






そのまま差し出した左手を掴まれる。





ペンの蓋を開ける音。





目の前のすこし下を向いた彼。





少しくすぐったい、感触。






『、、え?』







手の甲に、 "1-1佐藤葵" の、文字。








「俺の名前!」






改めてよろしくって、また笑ってくれた。







アオイって、名前だったんだ。




こう書くんだって、知れたことが嬉しかった。











今日は、嬉しい事だらけだ。











『佐藤、さん』






「なんで!葵でしょ?」






さっきも呼んでた、って少し膨れてる。











『あおい、さん』







「くんにしてよ、せめて」









『、、、葵…くん?』










「うん!それでよし」

















そう笑う葵くんに、わたしは、








この時からもう、意味の無い無謀な恋心を、
多分…抱き始めていたんだと思う。
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