私らと、ざまぁするぞ!〜冤罪で追放された令嬢に手を差し伸べたのは異世界の戦士たちでした。
30.詰問しても呼び掛けてもムダ
噴き出た黒い靄は、やがてその姿全体を包み込む。
濃度が濃くなって、見えなくなるぐらいに。
「だとしたら、とんだ甘ちゃんだな?詰めが甘いわ。いっつもね?」
翼の捨て台詞すら構わず、どんどん黒い靄が出現しては塊になっている。まるで黒い雲のようだ。
「いつも……いつも、ふざけやがって……!」
黒い雲の塊は、ある一定量になると……突然、音を立ててあっという間に霧散する。
許容量を超えて弾けたかのように。
そこに現れた姿とは、もうニセモノ韋駄天様の姿ではなかった。
屈強な肉体ではなく、線の細い体をした黒髪の青年へと変わっていたのだ。
それは、剣術大会の際に少しだけお目にかかった姿。
【擬態術式】を解いた……!
(架威……!)
光を灯さない冷たい瞳は、憎悪が込められたままで激しくこちらを睨み付けている。
それを見ていた傍聴観衆の方から、一斉に悲鳴に似たような叫び声がした。
【擬態術式】の事情を知らない者は驚くだろう。
韋駄天様だと思っていた人物が、成り代わるように別の人物の姿となっていたのだから。